世耕弘成氏の自民党復党に、思わぬ「待った」がかかった。
地元・和歌山では、世耕氏の復党を容認する声が圧倒的に多い。世耕氏は裏金問題で自民党離党に追い込まれた後、無所属で衆院選に2度当選した。和歌山2区では二階俊博氏の三男・二階伸康氏を破ったのである。自民党の党籍を失った状態でも選挙に勝ち続けた以上、「復党は時間の問題」とみるのが自然だ。
二階氏自身も世耕氏の復党について「時間の問題じゃないの?」という趣旨の発言をしている。
ところが8月6日、自民党の党紀委員会は世耕氏の復党について結論を出さず、先送りした。
党紀委員長は浅尾慶一郎氏。麻生派である。浅尾氏は会合後、世耕氏について「離党勧告に至ったのは党幹部として責任が重い」という慎重論がある一方、「2回の総選挙で当選している」という復党容認論も紹介した。
さらに党紀委員の石井浩郎氏は「まだ少し早いのではないか」と発言した。石井氏は旧茂木派である。
もちろん、これだけで「麻生太郎氏が党紀委員会に指示した」と断定することはできない。しかし、党紀委員会の人事と発言を踏まえれば、少なくとも世耕氏の復党を急がせたくない勢力が自民党内に存在することは見えてくる。
問題は「世耕を復党させるか」ではない。「いつ復党させるか」だ。
なぜなら、復党した世耕氏を高市早苗首相がどう処遇するのかによって、自民党の勢力図が大きく変わるからだ。
世耕氏は高市首相と近い。どちらも財務省と敵対する積極財政派だ。高市首相にすれば、財務省と戦うにあたって世耕氏の存在は不可欠だ。
世耕氏は参院の旧安倍派を率いてきた。参院幹事長まで務めた党内有力者であり、衆院に転じた今も参院自民に大きな影響力を持つ。世耕なき参院自民と衝突を繰り返す高市首相にとっては、これまた大援軍となる。
高市氏にとって、世耕氏は単なる復党希望者ではない。党内基盤を強化するための有力なカードなのである。
だからこそ、秋の内閣改造が重要になる。
もし世耕氏が復党した直後、高市首相が世耕氏を官房長官などの重要ポストに抜擢したらどうなるか。高市政権の党内基盤は一気に強化される。
これを警戒するのが麻生太郎氏ではないか。
さらにもう一人、世耕氏の復党で立場が微妙になるのが萩生田光一氏だ。
萩生田氏は旧安倍派の有力者であり、今後の自民党で幹事長など党の中枢ポストを狙う存在とみられる。ところが、そこに世耕氏が戻ってくれば、旧安倍派の人脈をめぐる競争が再燃する。
つまり、世耕復党問題の裏側には、高市・世耕ラインと麻生・萩生田ラインの主導権争いが潜んでいる。
しかも世耕氏は、復党を待つ立場でありながら、黙っていない。
8月8日、世耕氏は消費税減税の財源をめぐり、財務省の説明に正面から異議を唱えた。
世耕氏が取り上げたのは昨年度の国の決算だ。税収は3.5兆円増え、歳出は2.1兆円減った。単純計算すれば5.6兆円程度の余裕が生じているはずなのに、純剰余金は2.6兆円にとどまる。世耕氏が問題視したのは、その差額約3兆円である。
世耕氏の主張は明快だ。国債発行額を3兆円減らす形で処理されているが、国債発行額は国会が議決して決めるものだ。国会で十分な議論もないまま、財務省が実質的に3兆円分の国債を返済したのではないか――という問題提起である。
結論として世耕氏は、消費税減税の財源はここにも眠っていると主張する。
財務省側からすれば、税収が上振れすれば国債発行を抑制するのは制度上当然であり、国会が議決した国債発行の上限の範囲内で処理したという説明になるだろう。
しかし、重要なのは制度論だけではない。
世耕氏が、復党を待つ身でありながら、いま財務省の財源論に正面から噛みついたことだ。
普通なら、自民党への復党を目前に控えた政治家は、党内を刺激しない。まして復党を審査する党紀委員会が結論を先送りした直後なら、なおさら慎重になる。
ところが世耕氏は逆だった。
復党前から財務省に宣戦布告したのである。
これは世耕氏の政治姿勢を考えれば、さほど意外ではない。世耕氏はもともと積極財政派の急先鋒だ。
そして現在、財務省の財源論と対峙しているのが高市首相である。
高市氏が消費税減税を打ち出し、財務省や党内の慎重論とせめぎ合うなか、世耕氏が復党すればどうなるか。
世耕氏は、高市首相にとって極めて強力な「積極財政の援軍」になる。
だからこそ、世耕氏の復党は人事と直結する。
仮に高市主導の人事になれば、官房長官に世耕弘成氏、財務相に片山さつき氏、幹事長に武田良太氏、政調会長に西村康稔氏――といった積極財政色の強い布陣も考えられる。
一方、麻生・萩生田側が主導権を握れば、官房長官に木原稔氏、財務相に鈴木俊一氏、幹事長に萩生田光一氏、政調会長に小渕優子氏といった布陣も視野に入ってくる。
もちろん、これは現段階の政治力学から描いた仮想シナリオにすぎない。
しかし、秋の人事をめぐって何が争われるのかを考えるうえでは、非常に重要な対照である。
世耕復党問題は、「裏金問題のけじめ」対「2度の選挙で示された民意」という表向きの論争だけではない。
その裏側では、「高市・世耕」対「麻生・萩生田」という、自民党の次の権力配置をめぐる競争が始まっている。
そして、復党そのものは、おそらく時間の問題だろう。
焦点は、復党させるかどうかではない。
「いつ復党させるのか」。
そして、「復党した世耕氏を高市首相がどこまで引き上げるのか」。
8月6日の党紀委員会による結論先送りは、秋の内閣改造を前にした「時間稼ぎ」なのかもしれない。
世耕氏は待たされている。
しかし、ただ待っているわけではない。
復党前から財務省に牙をむいた世耕氏。その先にあるのは、単なる自民党復帰ではなく、高市政権の中枢をめぐる大きな人事抗争なのではないか。