政治を斬る!

蔵内、引退へ――麻生が福岡を制圧するのか 武田との「最終戦争」が始まった

福岡政界の勢力図が、大きく変わろうとしている。

長年、福岡県議会で絶大な影響力を誇ってきた「県議会のドン」こと蔵内勇夫氏が、いよいよ政界から退場する可能性が出てきた。

8月10日、服部誠太郎知事が、蔵内氏に対する「過度な配慮・忖度があった」と認め、「そういう関係は一切断っていく」と明言した。蔵内氏を後ろ盾として知事になった服部氏が、ついに蔵内氏との距離を明確にしたのである。

しかも同じ日、自民党福岡県議団では会長選が行われた。選ばれたのは40代の渡辺勝将氏。20票対19票という僅差で高橋義彦氏を破った。そして渡辺氏は、これまでの役員について「一掃する」との趣旨を表明。相談役や顧問も含め、県議団の旧体制を刷新する考えを示した。

さらに衝撃的だったのが、蔵内氏自身の発言だ。

議員辞職については「なんで辞職しなきゃいけないのか」と否定した一方、来年春の県議選への出馬については、「皆さんお感じの通り」「今それを言う必要はない」「表明時期は私が決める」と語った。

これは不出馬のサインなのか。

少なくとも、現職の県議が次の選挙に出るつもりなら、「出馬する」と言えばいい。ところが蔵内氏は言わない。「皆さんお感じの通り」と意味深に語り、表明の時期を自分で決めるという。

私は、かなり強い不出馬示唆と見るべきだ。

蔵内氏は10期目。来春の県議選に出馬すれば11期目を目指すことになる。しかし今、県議会では求心力が低下し、県議団の会長人事も思い通りにならない。行政側からは、これまでの「忖度関係」を断つと宣言された。地元・筑後市でも新人候補の動きが出ている。

まさに四面楚歌である。

そもそも服部知事は、蔵内氏が擁立した知事だった。

2021年、小川洋知事が病気で辞職した際、蔵内氏は副知事だった服部氏を後継候補として担いだ。一方、当時の武田良太氏は国土交通省出身の候補を擁立する動きを見せたが、最終的には二階俊博氏らの仲介もあり、自民党は服部氏に一本化。服部氏は圧勝し、オール与党の知事となった。

服部氏にとって最大の政治的後ろ盾が蔵内氏だったことは間違いない。

ところが5年後、その関係が崩れた。

問題になったのが、ワンヘルス事業、県議会の海外視察、そして県議会による取材制限だ。

ワンヘルスでは、みやま市に整備される約200億円規模のセンターや、筑後市の3億円のモニュメントなどが問題視されてきた。県議会の海外視察では高額なホテル代や旅行会社との随意契約が批判され、県議会の取材制限にも批判が集中した。

こうした問題が相次ぐなか、服部知事は蔵内氏との関係について「過度な配慮・忖度」があったと認めた。

これは単なる知事の心境変化なのか。

それとも、福岡政界の上位構造が変わった結果なのか。

ここで浮かび上がるのが、麻生太郎氏である。

私は、今回の蔵内氏の凋落を考えるうえで、「麻生と蔵内の関係が近かった」という過去だけを見てはいけないと思う。むしろ重要なのは、最近、両者の関係が悪化しているという政治情報である。

もし麻生氏が蔵内体制の弱体化を望んでいるとすれば、吉松源昭県議による「カツアゲ疑惑」の告発も違った意味を持ってくる。

吉松氏は麻生氏に近いとされる県議であり、蔵内氏との間には以前から政治的な距離があった。吉松氏と中村明彦県議の動きも含め、蔵内体制に対する批判勢力が形成されてきた。

もちろん、「麻生氏が吉松氏に告発を指示した」といったことを示す証拠はない。しかし、麻生氏と蔵内氏の関係悪化を前提にすれば、これら一連の動きを「蔵内体制の弱体化」という政治力学の中で見ることはできる。

そして決定的だったのが、8月10日の県議団会長選だ。

これまでの自民党県議団では、蔵内氏らベテランが大きな影響力を持ってきた。ところが今回は40代の若手2人による異例の選挙となり、渡辺氏が20票、高橋氏が19票。わずか1票差だった。

そして新会長となった渡辺氏は、旧役員を一掃する考えを示した。

これは、蔵内体制の「看板の付け替え」なのか。それとも、本当に旧体制が崩壊し始めたのか。

蔵内氏が退場するとなれば、長年続いた福岡政界の「三国志」が終わる。

これまでの三国志は、麻生太郎、武田良太、蔵内勇夫の三つ巴だった。

しかし、その一角である蔵内氏が退けば、残る大物は麻生氏と武田氏になる。

ここからが本当の戦いだ。

麻生氏は85歳。武田氏は58歳。

年齢も、政治キャリアも、勢力もまったく違う。

しかし、2人は福岡政界における長年のライバルである。

しかも今、その戦いは福岡だけにとどまらない。

舞台は東京にも広がっている。

高市政権の今後をめぐり、麻生氏は自民党内で強い影響力を維持しようとしている。一方、武田氏は高市総理との距離を縮めながら、9月の内閣改造・党役員人事をにらみ、麻生氏の影響力を削る動きを強めている。

つまり、東京の政局と福岡の政局が一本につながっている。

福岡県議会という「最後の聖域」で蔵内氏の影響力が崩れれば、麻生氏にとっては福岡政界を再編する絶好の機会になる。

その先にあるのは、麻生家の政治基盤の継承、すなわち世襲を見据えた「福岡の完全制圧」なのかもしれない。

一方、武田氏にとっては、ここで麻生氏に福岡を完全に押さえられるわけにはいかない。

だからこそ、蔵内氏の退場は終わりではない。

むしろ、次の戦争の始まりなのである。

実力で言えば、私は麻生氏が上だと思う。

しかし、政治には「時の利」がある。

85歳の麻生氏に対して58歳の武田氏には時間がある。そして高市政権の人事をめぐって、武田氏がどこまで巻き返せるか。

福岡県議会のドン・蔵内勇夫が退場するなら、福岡政界の「三国志」は終わる。

そして始まるのは、麻生太郎と武田良太による一騎打ちの「最終戦争」である。

果たして、最後に福岡を制するのはどちらなのか。