岩屋毅・前外相が中国へ飛んだ。
9月28日には中国の王毅外相、翌29日には何立峰副首相と会談した。岩屋氏は現在、閣僚ではない。日本国際貿易促進協会の会長としての訪中であり、経済交流や日中関係改善が主眼であることは間違いない。中国側も、日本国際貿易促進協会を「中日友好」の民間団体と位置づけている。
だが、このタイミングは興味深い。
直前にはトランプ米大統領と習近平国家主席の首脳会談が開かれた。華やかな外交演出とは裏腹に、台湾、AI、貿易などで大きな懸案が残ったものの、米中は貿易休戦の延長などを通じて対話を継続する姿勢を示した。
その直後に、石破政権で外相を務めた岩屋氏が北京入りしたのである。
中国側は今回の会談で、日本側指導者の台湾問題をめぐる「誤った言動」の是正を求めた。岩屋氏は厳しい日中関係の改善に努力する考えを示した。これは外交である。同時に、日本国内の政局と無関係とも言い切れない。
なぜなら岩屋氏の政治的な位置づけがあるからだ。
岩屋氏は石破茂氏に近い政治家であり、石破政権では外相を務めた。その石破氏の政権を支えた森山裕氏、中谷元氏らとともに、現在の高市政権とは距離を置く政治家として存在感を持つ。
そして、もう一人の名前が浮かび上がる。林芳正氏である。
林氏は今回の内閣改造で閣外に出た。総裁選への出馬については「先のことは分からない」と明言を避けながらも、総務相時代から続けてきた地方行脚を継続する考えを示している。
しかも、その動きは早い。9月21日には高知県で開かれた中谷氏の国政報告会に林氏が来賓として出席している。閣外に出た直後から、地方と政治家同士のネットワークをつなぎ直す動きが見えるのである。
林氏は総裁選出馬を明言していないが、注目すべきなのは、林氏を軸に、高市政権と距離を置く政治家たちがどこまで結集できるのかという問題だ。
石破系からは赤沢亮正経産相が留任した。宏池会には岸田文雄氏と林氏の関係が緊張し、岸田系の村井英樹氏が国対委員長に抜擢された。参院自民党では石井準一氏の交代が波紋を広げた。菅グループや武田グループからも高市政権に人材が入っている。そして林氏と麻生太郎氏も敵対関係にある。
つまり「反高市」という一点だけでは、人は簡単にはまとまらない。だからこそ、岩屋氏の訪中は面白い。表向きは日中外交。しかし、その背後をたどっていくと、石破氏、森山氏、中谷氏、岩屋氏、そして林氏という政治家の線が浮かんでくる。
来年の総裁選は、まだ先の話に見える。
しかし、総裁選は告示された日から始まるわけではない。誰と誰が会い、誰が地方を回り、誰が人脈をつくり、誰が誰を支えるのか。その動きは、すでに始まっている。
岩屋氏の訪中は、その一端を映し出しているのかもしれない。外交のニュースの裏側で、次の総裁選をめぐる政局も動き始めている。