麻生太郎氏が9月20日に86歳となった。自民党副総裁としてなお大きな影響力を持ち、9月16日の党役員人事でも続投した。だが、その権勢がいつまで続くのかという問題は、いよいよ現実味を帯びてきた。
一つの節目になりそうなのが、2027年秋の自民党総裁選である。高市早苗総裁が再選されれば、麻生氏の影響力はどうなるのか。高市氏が圧勝するのか、対抗馬との接戦になるのか。それによって党内の力学は大きく変わる。
つまり次の総裁選は、高市政権の信任を問うだけではない。長く続いた「麻生時代」の行方を占う選挙にもなり得る。
その変化を先取りするように、麻生氏の地元・福岡では「三国志」が動いた。
これまで福岡では、麻生氏、武田良太氏、蔵内勇夫氏による三つ巴の勢力争いが続いてきた。ところが蔵内氏の県政からの退場によって、構図は麻生氏対武田氏へと変わりつつある。
しかも県連会長には古賀篤氏が就く。旧岸田派に属する古賀氏は、麻生派でも武田派でもない。県議会議長には武田グループの大島道人氏が、野党統一候補との大接戦の末、くじ引きで選ばれた。
自民党が福岡県内で強い勢力を持つ一方、その内部では麻生氏が必ずしも思い通りに県連を動かせていない。福岡の「三国志」は、麻生氏の絶対的な支配を示す物語ではなくなりつつある。
そして最大の問題が、麻生派の「次」である。
麻生氏は派閥を愛する政治家だ。宏池会を飛び出し、少数派閥を第二派閥に育て上げ、いまや自民党で唯一残る派閥の領袖となった。総裁選で派閥の力を最大限に利用してきた麻生氏にとって、派閥は単なる人脈ではなく、政治そのものだった。
では、麻生氏がいなくなったとき、この派閥は誰が率いるのか。
義弟の鈴木俊一氏か。宏池会を一緒に飛び出した河野洋平氏の長男・河野太郎氏か。それとも派閥という仕組みそのものが時代遅れとなり、別の勢力結集が始まるのか。現時点では見通せない。
世襲問題もある。福岡8区の麻生氏の地盤は、麻生氏の長男が受け継ぐことが有力視されている。しかし麻生氏の長女も政界に意欲を持っていて、麻生氏の旧選挙区を含む福岡9区への擁立を視野に入れているとの見方も地元では出ている。麻生家の後継問題は、個人の引退にとどまらず、福岡の自民党勢力図を左右する。
もう一つ見逃せないのが皇室問題である。麻生氏が強い関心を示してきた皇位継承や皇室典範の再改正は、麻生氏の政治力と無縁ではない。麻生氏が第一線から退けば、これまでの政治的な力学も変わる。
そして野党再編である。
高市早苗総理と日本維新の会は連携を強める一方、麻生氏と関係の深い国民民主党がどの方向に進むのか。麻生氏と対立関係にある公明党が模索する中道勢力の再編とも重なり、自民党内の世代交代が野党側の再編を誘発する可能性もある。
麻生氏が政界を去る。その意味は、一人の大物政治家がいなくなることだけではない。
福岡、自民党、派閥、皇室、そして野党再編。麻生氏が長年にわたって影響力を及ぼしてきた領域で、同時に「空席」が生まれる。
問題は、その空席を誰が埋めるのか。
麻生氏の権勢があと1年だとすれば、政界はその1年を使って「麻生後」の陣取り合戦を始めることになる。
「麻生後」は、まだ未来の話ではない。すでにその序章が始まっている。