福岡の自民党が大揺れである。
発端は県議会の金銭授受疑惑だ。県議会の「ドン」と呼ばれてきた蔵内勇夫氏が議員辞職に追い込まれ、自民党福岡県連の松本國寛会長も辞任の意向を固めた。蔵内側近として県連の中枢にいた松本氏まで退場すれば、長年続いた「蔵内王国」は完全崩壊である。
しかも今回は、単なる県連内部の不祥事処理ではない。党本部が強烈な圧力をかけている。
8月28日、松本会長ら県連幹部が党本部に呼び出され、鈴木俊一幹事長から「現状では来春の県議選で公認証を出せない」と通告された。背景には高市早苗総裁の強い危機感がある。来春は統一地方選であり、福岡の問題が全国の選挙戦に波及すれば、高市政権そのものが打撃を受けるからである。
つまり高市総裁は、福岡県連に「自浄作用を見せなければ公認しない」という最後通告を突きつけたのである。
しかし、蔵内氏が退場した後に誰が福岡自民を握るのか。ここからが本当の政局だ。
次の県連会長候補として浮上しているのが、福岡1区選出の井上貴博氏である。元県議で、現在は首相補佐官。麻生太郎氏に近い麻生派の衆院議員である。
もし井上氏が県連会長に就けば、県議中心だった「蔵内→原口→松本」という流れから、麻生氏を後ろ盾にした国会議員を軸とする新体制へ大きく転換することになる。
一方、県議会では別の動きが進む。
蔵内氏が議長を辞職した後、自民党県議団で次期議長候補を募ったところ、手を挙げたのは田川郡選出の大島道人氏ただ一人だった。大島氏は武田良太氏に近い県議だ。
もし井上氏が県連会長、大島氏が県議会議長となれば、福岡自民は奇妙な二重構造になる。
県連は麻生。
県議会は武田。
蔵内という大きな「重し」が消えた瞬間、麻生太郎と武田良太の勢力争いが、人事という形で前面に出てくるのである。
もちろん現時点で、「井上氏は麻生の指示で動き、大島氏は武田の指示で動いている」と断定するのは早い。しかし、両者の政治的位置を考えれば、福岡自民の主導権争いが次の段階に入ったと見るのは自然である。
そして、自民党が内部抗争を繰り広げている間に、外から猛烈な攻勢が始まっている。
来春の県議選に向け、参政党は30人規模、維新は20人以上、国民民主党は10人以上の候補者を擁立する方針を打ち上げた。
参政党の神谷宗幣代表は「県議入れ替え大作戦」を掲げ、既成勢力への攻撃を強める。維新の吉村洋文代表も「県議会を洗濯する。総入れ替え」と宣言し、議員定数と報酬の3割削減、海外視察禁止などを打ち出す。国民民主党の玉木雄一郎代表も「政治とカネ」を争点に、10人以上の擁立を目指す。
定数87の福岡県議会に対し、3党だけで60人規模の候補者を立てる構えである。もちろん重複立候補もあるため、そのまま議席数に結びつくわけではない。それでも自民党現職にとって、これほど厳しい選挙環境はない。
とりわけ今回の金銭授受疑惑は、「古い県議会政治」の象徴として攻撃材料にされるだろう。
蔵内氏が去って一件落着、とはならない。
むしろ逆である。
蔵内王国の崩壊によって生まれた権力の空白を、麻生と武田が奪い合い、その隙を参政党、維新、国民民主が突いてくる。
高市総裁にとっても他人事ではない。福岡で自民党が大敗すれば、「高市総裁のもとで自民党は地方選を戦えるのか」という問題になる。来春の統一地方選は、高市政権の総裁再選にも影を落としかねない。
そして麻生にとっては、もっと長期的な問題がある。
85歳となった麻生氏の「ポスト麻生」を誰が担うのか。武田良太氏は58歳、当選8回。旧二階派を継承し、福岡県内で独自の勢力を持つ。これに対し麻生氏が福岡市長4期の高島宗一郎氏を国政に引き入れ、次の参院選を経て「福岡のドン」に押し上げる構想があるとすれば、武田氏との対抗軸はさらに鮮明になる。
蔵内氏の退場は、福岡政局の終わりではない。
むしろ始まりである。
「蔵内後」の福岡を誰が支配するのか。
麻生か、武田か。
そして、その争いを横目に、既成政党を一気に飲み込もうとする参政党、維新、国民民主。
来春の福岡県議選は、単なる地方選挙ではない。
自民党の古い県議会政治が生き残れるのか。それとも福岡から政界再編の波が起きるのか。
その答えが、ここで出ることになる。