自民党の麻生太郎副総裁は8月25日昼、高市早苗首相と官邸で二人きりの会食をした。時間は約50分。そして、その日の夜、麻生氏が会ったのが茂木敏充外相だ。こちらは約3時間。
昼は高市首相と50分。夜は茂木氏と3時間。この「時間差」が、9月の内閣改造・自民党役員人事を読み解く重要な手掛かりだろう。
高市首相と麻生氏が二人きりで会食するのは、高市政権発足後初めて。内閣改造・党役員人事を目前にしたタイミングだけに、最大のテーマは幹事長人事だったと考えるのが自然だ。
現在の鈴木俊一幹事長は麻生氏の義弟。麻生氏に極めて近い一方、高市首相との関係は必ずしも良好ではない。高市首相が鈴木氏を交代させたいと考えているとすれば、問題は後任だ。
候補として浮かぶのは、麻生氏と高市氏に繋ぎ役である萩生田光一氏、麻生氏の宿敵である武田良太氏だった。rところがここにきて麻生氏の意中の人として急浮上してきたのが茂木氏だ。
茂木氏は麻生氏の腹心で、岸田政権では麻生氏が副総裁、茂木氏が幹事長としてタッグを組んだ。もし茂木氏が幹事長に復帰すれば、高市首相・総裁、麻生氏・副総裁、茂木氏・幹事長という体制になる。
これは、どこかで見た形だ。岸田政権で成立した「3頭政治」である。
当時、岸田首相をトップに、麻生氏と茂木氏が党内主流派の中核を形成し、最大勢力だった安倍派や菅・二階勢力を抑え込んだ。裏金事件も安倍派と二階派を直撃したのに対し、麻生派、茂木派は無傷だった。
さらに重要なのが総裁選だ。
2024年の総裁選決選投票では、麻生氏と茂木氏は高市氏を支持した。2025年の総裁選でも、両者は高市氏を支持し、高市政権の誕生を後押しした。
しかし、これは高市氏を全面的に支えるという意味ではない。
むしろ麻生氏にとって高市氏は、自分がキングメーカーとしてコントロールできる総裁であればいい。茂木氏もまた総理・総裁を目指す立場だ。
そう考えると、「茂木幹事長」は非常に意味のある人事になる。
高市首相が鈴木氏を代えたいのであれば、麻生氏は「それなら茂木を」と迫る。鈴木氏を外すことで高市氏の要求に応じるように見せながら、実際には党本部を麻生・茂木ラインでさらに強力に押さえる。
つまり、鈴木俊一から茂木敏充への交代は、麻生支配の終わりではない。麻生・茂木体制の再構築だ。
高市氏にとっては、かなり厳しい。総理・総裁は高市氏でも、党の実権を握る幹事長が麻生氏の腹心なら、来年秋の総裁再選を目指す高市氏の党内基盤は大きく制約される。
では、8月25日の昼、麻生氏は高市首相に「鈴木を代えるなら茂木で」と伝えたのか。
ここはまだ確認できていない。しかし、その可能性を考えると、その日の夜に麻生氏が茂木氏と約3時間会食したことが俄然、意味を持ってくる。
考えられるシナリオは二つ。
一つは、高市氏が茂木幹事長を受け入れたケース。その場合、麻生氏と茂木氏は具体的な党人事や今後の政権運営を詰めた可能性がある。
もう一つは、高市氏が拒否したケース。その場合、麻生氏と茂木氏が相談したのは対抗策だろう。妥協して鈴木氏を留任させるのか。それとも、萩生田氏の昇格で高市氏の顔を立て、麻生氏の宿敵である武田氏らの起用を阻むのか。
高市首相にとって、最大の選択はここだ。茂木幹事長を受け入れるのか。それとも拒否するのか。
ただし、第三の道もある。
党は麻生・茂木に渡す。その代わり、内閣は高市が自由に作る。
たとえば自民党は、麻生副総裁、茂木幹事長、萩生田政調会長、鈴木総務会長とする。一方、内閣では木原稔官房長官や片山さつき財務相を劉宇人させ、外相や経産相には西村康稔氏や小林鷹之氏を起用する。
これなら、高市氏は党本部の主導権を麻生・茂木ラインに譲る代わりに、内閣には自分のカラーを強く出せるだろう。
果たして、そんな取引が成立したのか。
それとも高市氏は「茂木幹事長だけは認めない」と突っぱねたのか。
8月25日の昼と夜の二つの会食は、その答えを探るうえで極めて重要だ。
来年秋の総裁選に向けて、高市氏が自らの政権を作れるのか。
それとも、麻生・茂木体制の中に高市首相が置かれるのか。
9月人事は、高市政権の命運だけでなく、ポスト高市をめぐる自民党の権力地図そのものを変える可能性がある。