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岸田首相が仕掛けた「派閥解消」で派閥はなくならない!これは派閥を率いるリーダーの顔ぶれが大きく入れ替わる「派閥再編」のはじまりだ!

権力闘争が続く限り、派閥はなくならない。岸田文雄首相が打ち上げた「派閥解散」は、裏金事件から一時的に目をそらす「偽装解散」といっていい。いずれ派閥は復活するだろう。

とはいえ、派閥を率いるリーダーたちの顔ぶれは大きく変わる可能性が高い。

今回の派閥解散は、「派閥解消」というよりは「派閥再編」のはじまりとみたほうがよい。

岸田首相が老舗派閥・宏池会(岸田派)の解散を突然打ち上げた理由は、以下の3つである。

①裏金事件で高まる自民党批判を抑え、内閣支持率を回復させる

②政治資金を透明化する政治資金規正法を世論が納得するほど大胆に改正するのは困難と見て、派閥解消に議論をすり替える

③派閥解散の連鎖を誘発して麻生・茂木・岸田の主流3派体制をリセットし、キングメーカーの麻生太郎副総裁と派閥解消を訴える菅義偉前首相と天秤にかけて政権延命を目指す。

岸田首相の狙いは現時点ではある程度達成されたといっていい。

麻生氏は支持率が低迷する岸田首相を3月の訪米と予算成立を花道に退陣させ、主流3派体制を維持したまま茂木政権へ移行させる筋書きを描いていたが、派閥解消論によって吹き飛んだ。

岸田首相がバイデン大統領から招待された国賓待遇で訪米について、麻生氏は3月前半に設定することを想定していたが、岸田首相はこれを4月10日に先送りすることに成功。3月退陣論を抑え込んだのである。

さらに岸田派に続いて、二階派、安倍派、森山派も解散したことで、派閥存続を目指す麻生派と茂木派の包囲網が出来上がった。すでに自民党議員の7割は無派閥となっており、派閥の多数派工作で主導権を握ってきた麻生氏の政治基盤は大きく揺らいでいる。岸田首相に3月退陣を迫るどころではなくなったのだ。

岸田首相とすれば党内の7割を占める無派閥議員を取り込み、内閣支持率を回復させれば、9月の自民党総裁選で再選を果たす道筋が見えてくる。内閣支持率は一部世論調査で10%台まで落ち込み、党内にも岸田首相の振る舞いに反発が広がっており、なかなか険しい道だが、岸田首相はあきらめていないようだ。

こうしたなかで、岸田首相主導の「派閥解消」を逆手に取り、派閥トップの世代交代を狙う人々も登場してきた。いったん派閥解消を進め、総裁選を機に新しい派閥を旗揚げする「派閥再編」の好機が降ってきたというわけだ。

🔸高市早苗

その筆頭は、無派閥の高市早苗経済安保担当相である。

高市氏は1月27日に長野市内で講演し、能登半島地震の復興を優先して2025年大阪・関西万博の開催を延期するよう岸田文雄首相に進言したことを明らかにした。総裁選に向けて岸田政権の「震災復興の遅れ」を批判し「万博延期」を訴える勝負手を放った格好だ。現政権が推進する国策プロジェクトに現職閣僚が異議を唱えるのは極めて異例で、総裁選への火蓋が切って落とされたといっていい。

高市氏は前回総裁選では安倍晋三元首相に担がれ3位と健闘したが、安倍派5人衆から警戒され、安倍氏の急逝後は孤立感を深めていた。総裁選出馬に必要な推薦人20人を確保するために、閣僚としては異例の勉強会を旗揚げしたが、初回出席者は13人にとどまり、展望は開けていなかった。安倍派には高市氏の右寄りの政治姿勢にシンパシーを抱く議員は少なくないが、5人衆が派閥内ににらみをきかせ、高市氏への接近を阻んできたからだ。

だが、5人衆が裏金事件で失脚し、重しはとれた。高市氏が総裁選に出馬する段階で高市支持を打ち出し、高市派結成への流れができる可能性が高い。派閥再編の典型例といえるだろう。

🔸福田達夫

安倍派(清和会)を創設した福田赳夫元首相の孫である福田達夫元総務会長は、安倍派解散を主張しつつ「新しい集団をつくっていく」と明言し、派閥再編への意欲を隠していない。

福田氏は当選4回の中堅ながら岸田政権発足直後は総務会長に抜擢され、安倍派の次世代ポープの座を固めた。世代交代を恐れる5人衆からは高市氏同様に警戒されてきたが、裏金事件では5人衆を厳しく批判し、派閥解散を主張。いったん派閥を解消したうえで、総裁選を機に再結集を掲げて「福田派」として再建する道筋を描いているのは間違いない。

もともと清和会には右寄りの安倍系とリベラルさも併せ持つ福田系がある。福田氏のもとへ安倍系がすべて結集するのは難しく、福田系を中心とした再結集という形になる可能性が高い。

🔸小渕優子

麻生氏の後押しでポスト岸田を狙う茂木敏充幹事長に反旗を翻して茂木派(平成研究会)を離脱したのは、小渕優子選対委員長だ。

小渕氏の父・小渕恵三元首相はかつて平成研を率いる派閥会長だった。竹下登元首相の最側近として竹下氏が旗揚げした最大派閥「経世会」を受け継ぎ、自民党が政権転落して派閥が低迷した時代を乗り越えて再建し、1998年には首相に就任して自公政権を樹立した。「平成研究会」の名称は、小渕氏が竹下内閣の官房長官時代に元号「平成」の発表で知名度を挙げたことに由来するものだ。

小渕内閣で官房長官を務め、小渕氏が首相在任中に急死した後は「参院のドン」として森喜朗元首相ら清和会とともに自民党に君臨した青木幹雄氏(昨年死去)は小渕優子氏を寵愛し、将来の平成研究会のリーダーとして育ててきた。日本新党で初当選した後に自民党入りして平成研に加わった茂木氏を、青木氏は毛嫌いし、森氏とともに岸田首相に対して小渕氏登用を迫ってきたのである。

小渕氏の茂木派離脱にあわせ、青木氏の長男である青木一彦参院議員ら参院茂木派の議員は相次いで派閥離脱を表明。今回の派閥解散の連鎖を機に茂木氏に反旗を翻し、小渕氏をもとに新しい派閥を旗揚げする可能性が極めて高いとみられている。

茂木氏は麻生氏と歩調をあわせて派閥存続を決めたが、足元は大揺れで、ポスト岸田へ暗雲が垂れ込めた格好だ。

🔸河野太郎

小渕氏と現時点で対照的なのは、麻生派の河野太郎デジタル担当相だ。

麻生派では麻生氏と長年行動を共にしてきた岩屋毅元防衛相が離脱を表明したが、河野氏は現時点では自重して模様眺めの構えだ。

麻生氏は世代交代論が高まることを恐れて河野氏を突き放してきた。河野氏は同じ神奈川選出で無派閥の菅義偉前首相や小泉進次郎元環境相との連携を深め、前回総裁選では菅氏に担がれて出馬。麻生氏は強く反発して岸田氏を担ぎ、河野氏を打ち負かした経緯がある。

小渕氏が茂木氏に反旗を翻したように、河野氏にとって今回の派閥解消論の高まりは、麻生氏と決別して新しい派閥を立ち上げる格好の機会である。ここで踏み切れなければ、一気に失速する可能性もある。

🔸林芳正

最後の注目すべきは、宏池会(岸田派)のナンバー2だった林芳正官房長官だ。

林氏は宏池会で岸田首相以上に「将来の首相候補」として本命視されてきたホープだった。岸田政権で外相に起用され、持ち前の英語力と米中双方の幅広い人脈で「林外交」を展開していたが、岸田首相に警戒され、昨年9月の内閣改造人事で外相から外され、派閥運営を任された。

岸田首相は今回の裏金事件で安倍派の松野博一官房長官を更迭したものの、後継官房長官が見当たらず、林氏を閣内に呼び戻したのである。

林氏にすれば、岸田首相が退任後も宏池会会長を続ければ、目の上のたんこぶとなり、いつまでも総裁選に出馬できない恐れがある。ここで宏池会をいったん解散し、岸田政権が終焉した後、林氏のもとで再結集したほうが世代交代が進みやすいという打算もある。今回の派閥解散は、むしろ歓迎ではないか。

林氏は宏池会前会長の古賀誠元幹事長と近く、古賀氏とは長年の政敵である麻生氏に敬遠されてきた。林氏の官房長官起用にも麻生氏は反対したといわれている。派閥解消で麻生派と宏池会の連携に終止符が打たれたことも林氏にとってはプラス要因であろう。

岸田最側近の木原誠二幹事長代理(前官房副長官)も岸田首相から林官房長官へじわり軸足を動かしているようだ。

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