秋の内閣改造で、大きな焦点になるのが林芳正総務相の処遇である。
来年秋の自民党総裁選で、高市早苗首相の最大の対抗馬として名前が浮上しているのが林氏だ。東大、ハーバード大を経た超エリートで、宏池会のプリンス。財政規律を重視する姿勢も、積極財政を掲げる高市首相とは対照的だ。
林氏にとって、総裁選を戦ううえで最大の課題は党員票だろう。知名度を高め、全国の党員に直接訴えるには、閣外に出て一年間かけて全国を回るという選択肢がある。
高市首相からすれば、それは避けたい。
最大のライバルを閣外に出せば、林氏は自由に動ける。全国行脚を始めれば、総裁選に向けた選挙運動そのものになりかねない。ならば林氏を閣内に残し、大臣ポストに縛り付けておく。高市側からすれば、これが最も安全な人事になる。
しかし、ここで政局を複雑にするのが麻生太郎副総裁である。
麻生氏は高市首相の再選を無条件で支える立場ではない。むしろ高市氏が来年秋の総裁選で無投票再選を果たすことを阻止し、高市首相が自分に再選への協力を求めてくるように仕向け、もう一度、麻生氏自身がキングメーカーとして存在感を示したいと考えても不思議ではない。
そのためには、対抗馬が必要だ。
林氏が閣外に出れば、総裁選に向けて自由に動ける。つまり、林氏を「追い出す」ことが、高市首相にもう一度総裁選を戦わせることにつながる。
ここが今回の人事の最大のポイントだ。
読売新聞は、林氏が無役になれば総裁選に向けて動き出すとの見方を伝えた。日本テレビやNHKも、高市首相が来年秋の総裁選を見据えてライバルをどう処遇するかに注目している。
内閣改造は9月中旬が有力だ。9月13日には沖縄県知事選、15日には消費減税を含む税制改正大綱の閣議決定が予定され、その直後の16~18日ごろに内閣改造・党役員人事が想定される。高市首相は24日から国連総会出席のため訪米し、10月には臨時国会が召集される。
つまり、秋の人事は来年秋の総裁選をにらんだ「前哨戦」になる。
ここで参考になるのが安倍晋三元首相の人事だ。
安倍氏も総裁選のライバルだった石破茂氏をいったん幹事長として政権内部に取り込んだ。その後、石破氏が安保法制担当相への就任を固辞すると、地方創生担当相に配置転換。最終的には石破氏は閣外へ出て、安倍氏との対決を選んだ。
安倍氏が石破氏を完全に排除するのではなく、まず政権内に取り込んだことは重要だ。
高市首相も同じように、林氏を閣内に置き続けることでライバルの動きを封じ込め、できれば無投票再選を果たしたいのだろう。
一方、林氏をめぐっては、麻生氏だけでなく、宏池会のトップである岸田文雄前首相との関係も複雑だ。林氏の周囲には石破氏や、麻生氏と長年対立してきた武田良太氏らの存在もある。
林氏は「高市vs林」という単純な二者対決ではない。
高市首相、麻生氏、林氏、さらに岸田氏や石破氏まで絡む複雑な権力ゲームになっている。
だからこそ、秋の内閣改造で林氏が「残るのか、出るのか」は単なる閣僚人事ではない。
林を閣内に残せば、高市首相がライバル封じを優先したということになる。
林を閣外に出せば、麻生氏が高市首相に総裁選を戦わせる布石を打った可能性が浮上する。
果たして林芳正は、檻の中に残されるのか。それとも、総裁選という戦場へ放たれるのか。
秋の内閣改造は、高市早苗、麻生太郎、林芳正――3人の思惑が交錯する最初の大きな政局になりそうだ。