秋の内閣改造で、ひときわ奇妙な人事が浮上している。小泉進次郎氏、茂木敏充氏、小林鷹之氏といった「ポスト高市」の有力候補が次々と政権内に取り込まれる一方、林芳正氏だけが処遇未定のまま取り残されているのである。
これは単なる閣僚人事ではない。来年秋の自民党総裁選をめぐる、高市早苗総理と麻生太郎氏の思惑の違いが透けて見える。
政権中枢では、麻生副総裁、鈴木幹事長、木原官房長官、片山財務相の留任が固まりつつある。高市総理が「麻生支配からの卒業」を急がず、来年の総裁再選に向けて麻生氏との協調を選択した結果とみることができる。
その一方で、昨年の総裁選を戦った小泉氏は防衛相に留任し、茂木氏も外相にとどまる方向である。小林氏も重要閣僚として入閣する見通しだ。
つまり高市氏にとっての潜在的なライバルを、政権の内側に抱え込む構図である。来年秋の総裁選出馬を封じるためだ。
だが、林氏だけは違う。
ここに麻生氏の意図があるのではないか。
高市氏にとって理想的なのは、ライバル候補をすべて閣内に取り込み、来年秋の総裁選を無風にすることである。無投票再選なら、高市氏は麻生氏に「支援してほしい」と頭を下げる必要もない。
しかし麻生氏にとって、それは望ましい展開ではない。
高市氏を再選させるにしても、総裁選で競争を残しておけば、高市氏は麻生氏の力を必要とする。だからこそ、林氏だけを閣外に放り出し、総裁選への出馬を促す。これが「林だけ追放」というシナリオである。
林氏にとっても、無役は必ずしも悪い話ではない。むしろ総裁選に出るなら、閣外に出た方が動きやすい。
高市氏と林氏の一騎打ちとなれば、対立軸は明確になる。財政政策、外交・安全保障政策などで違いを打ち出し、反高市・反麻生勢力の旗頭となることができる。
問題は、林氏が本当に負け戦に飛び込むのかである。
林氏を支えるのは、石破茂氏周辺や宏池会系のベテラン勢、そして反麻生の政治家たちである。しかし岸田文雄氏がどう動くかは極めて重要だ。岸田氏が林氏を支えるのか、それとも小泉氏を支援するのか。宏池会系の勢力図そのものが揺さぶられる。
さらに麻生氏が警戒するのは林氏との一騎打ちだけではない。
もし林氏が反麻生勢力を結集して善戦すれば、むしろ林氏の求心力を高めることになりかねない。下手をすれば逆転負けもありえる。
そこで麻生氏が第三の候補を立て、反高市票を分散させるという戦術も考えられる。河野太郎氏、小渕優子氏、あるいは茂木氏自身が再浮上する可能性も捨てきれない。
三つ巴なら、国会議員投票が中心となる決選投票で、麻生氏の影響力が最大化するからである。
そう考えると、小泉氏や小林氏、茂木氏の処遇も単なる「留任」ではない。
小泉氏は防衛相として安全保障政策で実績を積む機会を得る。総裁選二連敗の小泉氏にとって、ここで覚醒できるかは大きい。小林氏は重要閣僚を経験すれば、総理候補としてのキャリアを一段上げる。茂木氏は、麻生氏の意向もあって政権内に残るものの、総裁への執念を捨てたわけではない。
そして最大の焦点が林氏である。
林氏を閣内に残せば、高市氏は無投票再選に一歩近づく。林氏を閣外に追い出せば、麻生氏の描く「総裁選のある政権」に近づく。
秋の内閣改造は、来年秋の総裁選の前哨戦である。
そして林氏の人事こそ、高市氏が麻生氏の影響力から本当に自立できるのかを測る、最初のリトマス試験紙なのである。