9月の内閣改造・自民党役員人事の輪郭が見えてきた。最大の特徴は、「改造」と呼ぶにはあまりにも現状維持色が強いことである。麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長、木原稔官房長官、片山さつき財務相――主要ポストの留任が相次いで報じられている。
なかでも象徴的なのが鈴木幹事長の続投である。鈴木氏は麻生氏の義弟であり、高市早苗首相との関係は決して良好とはいえない。これまで幹事長交代の候補として萩生田光一、武田良太、茂木敏充各氏らの名前が浮上していた。しかし結局、高市首相は鈴木氏を動かさない方向に傾いた。
転機となったのは8月25日の高市・麻生の会食であろう。二人だけの会談で、秋の人事だけでなく、来年秋の総裁選までを見据えた大きな取引が成立した可能性がある。
つまり高市首相は「高市カラーを打ち出す人事」よりも「総裁再選」を優先したのである。
これは麻生氏にとって大きな勝利である。麻生氏が5月に立ち上げた国力研究会議連を軸に、武田氏や林芳正氏らを政権中枢から遠ざけ、高市政権を支えながら実権を握る。高市首相を倒すのではなく、高市首相を政権に残したまま自らの影響下に置く。その戦略が一段と鮮明になった。
問題は、高市首相の総裁再選が「麻生頼み」になってしまうことである。
来年秋の総裁選まで、高市首相は麻生氏と正面衝突できない。消費減税などの政策、党役員人事、国会運営、さらには早期解散の判断に至るまで、麻生氏の意向を無視しにくくなる。総裁再選を勝ち取るために麻生氏の支援を必要とするなら、麻生氏に逆らうことそのものが再選リスクになるからだ。
その意味で今回の人事は、単なる「留任」ではない。高市政権における権力構造そのものが変化したことを示す人事なのである。
幹事長をめぐっては、萩生田氏の昇格、武田氏の抜擢、茂木氏の復帰などが取り沙汰された。しかし萩生田氏には「政治とカネ」の問題がつきまとい、武田氏は麻生氏と対立する福岡の政治勢力である。茂木氏についても高市との関係が微妙だ。結果的に、麻生氏の義弟である鈴木氏を残すことが最も無難な選択となった。
官房長官も同様である。世耕弘成氏の起用案は復党問題で進まず、片山さつき氏の横滑りも見送りとなれば、木原氏を残すしかない。財務相も片山留任で落ち着く公算が大きい。
こうして「留任」が「留任」を呼ぶ。ひとつのポストを動かさないことで、別のポストも動かせなくなる。その結果、当初想定された「高市カラーの内閣改造」が、いつの間にか「麻生体制を前提とした小幅改造」に変わってしまうのである。
もちろん、まだどんでん返しはあり得る。特に注目されるのが維新からの入閣だ。馬場伸幸前代表、藤田文武共同代表に加え、大穴として吉村洋文代表の名前が浮上する。留任続々の人事の中で、維新からの入閣が唯一の目玉になる可能性もある。
だが、ここにも麻生氏の影が差す。高市首相が本当に吉村代表との連携を深めたいのであれば、維新との関係強化は高市独自の政治基盤づくりにつながる。一方、麻生氏にとっては、高市が独自の勢力を拡大することは必ずしも歓迎できない。
高市首相は麻生氏を切れなかった。だからこそ麻生氏は、高市を倒す必要がなくなった。
「高市おろし」ではなく「高市封じ込め」。
来年秋の総裁選まで、この構図が続くなら、高市政権の最大の敵は野党ではなく、政権内部の権力構造ということになる。今回の「留任続々」は、そのことを静かに物語っている。