参院選を目前に控えた永田町で、表向きには政策論争が続いている。しかし、水面下ではそれ以上に激しい権力闘争が進行している。
その主役は、高市早苗首相でもなければ、麻生太郎最高顧問でもない。
今、静かに存在感を高めているのが武田良太元総務相である。
現在の政局は「高市対麻生」という構図で語られることが多い。しかし実際には、それほど単純ではない。高市政権を支える勢力は限られ、麻生氏は党内多数派を背景に圧倒的な影響力を握っている。今後の最大の焦点は、高市首相が「反麻生勢力」をどこまで結集できるかにある。
その中心人物として浮上しているのが武田氏なのだ。
武田氏は福岡11区選出で当選8回。福岡県政界では長年、麻生氏と勢力争いを続けてきた政治家である。
政治家としての歩みは決して順風満帆ではなかった。
早稲田大学卒業後、亀井静香氏の秘書となり、25歳で政界入りを目指したものの、衆院選では3度連続落選。それでも諦めず、2003年に無所属で初当選を果たした。
その後、自民党へ復党したが、郵政民営化では党執行部に反旗を翻し、再び無所属で戦うなど、常に組織より自らの政治判断を優先してきた。
自民党復党後は山崎派から二階派へと移り、菅義偉政権では総務大臣に就任。一時は将来の党幹部候補とも目された。
ところが、裏金問題で役職停止処分を受け、さらに衆院選では維新候補に敗れ議席まで失う。
普通なら政治生命を絶たれても不思議ではなかった。
しかし今年の総選挙で返り咲きを果たし、二階派の流れを受け継ぐ存在として再浮上してきた。
そんな武田氏が高市首相へ急接近した象徴的な出来事がある。
今年1月、高市首相が麻生氏に十分な根回しをしないまま衆院解散に踏み切り、自民党内が大混乱となった直後のことだ。
高市首相は武田氏の応援で福岡入りした際、「年末年始は武田さんからいただいた中華おせちと豚まんのおかげで生き延びました」と笑いを交えながら紹介した。
さらに「武田さんを国会へ戻してもらわないと困る」とまで語った。
一見すると微笑ましいエピソードだが、永田町では別の意味で受け止められた。
高市首相が麻生氏の地元・福岡に乗り込み、麻生氏の天敵である武田氏との関係をあえて強調したことは、「反麻生」へのメッセージではないかとの見方が一気に広がったのである。
武田氏にも明確な狙いがある。
官邸と党本部の対立が深まる中、その間に入り込み、自らが幹事長として政権運営を担う――そんな構想を描いていると見る向きは少なくない。
しかし、こうした動きを麻生氏が黙って見過ごすはずがない。
麻生氏は新たな議員連盟「国力研究会」を立ち上げ、自民党議員の大半を結集させた。
総裁候補たちも幅広く参加する一方で、武田氏や林芳正氏は発起人から外し、主導権を握れない立場に置かれた。
これは党内に対し、「権力の中心は依然として麻生氏である」というメッセージを発信する意味合いが強い。
もっとも、反麻生勢力にも動きが出ている。
その象徴が武田氏と林氏の接近である。
旧二階派と旧岸田派という、本来なら距離があるはずの両者が会談を重ねる背景には、「麻生一強」を警戒する共通認識があるとみられる。
さらに、この人脈の背後には菅義偉前首相の存在も見え隠れする。
菅氏は維新との関係が深く、武田氏とは長年の盟友であり、林氏との関係も悪くない。
かつて官邸を支えた官僚グループも再び動き始めたとの見方があり、反麻生勢力の調整役として菅氏が再び存在感を増す可能性もある。
この構図は決して最近始まったものではない。
自民党では長年、「麻生グループ」と「菅・二階グループ」の主導権争いが続いてきた。
麻生氏の基盤は財務省や旧麻生派、旧茂木派、旧岸田派など党中枢である。
これに対し、菅・二階ラインは総務省、国土交通省、公明党、維新とのパイプを強みとしてきた。
外交面でも特徴が分かれる。
麻生氏が対米重視なら、菅・二階ラインは中国・韓国との関係維持にも力を入れてきた。
武田氏が現在、日韓議員連盟会長を務めているのも、その流れを引き継ぐものと言える。
さらに見逃せないのが、宏池会をめぐる歴史的な因縁である。
武田氏の伯父は、自民党幹事長を務めた田中六助氏。田中氏は宏池会の実力派幹事長として知られ、古賀誠氏の政治的な師匠でもあった。
一方、麻生氏は加藤紘一氏や古賀氏と長年激しく対立してきた。
つまり現在の麻生対武田という対立は、福岡政界だけの争いではない。
宏池会が歩んできた数十年に及ぶ権力闘争の延長線上に位置付けることもできるのである。
では、高市首相はこの対立を利用できるのだろうか。
高市首相と維新だけでは党内で多数派を形成することは難しい。
だからこそ武田氏や菅氏、林氏らを含む「反麻生勢力」が本当にまとまるかどうかが最大の焦点となる。
もっとも、その実現は容易ではない。
林氏と岸田前首相の距離、武田氏と維新との関係、さらにはそれぞれの総裁選への思惑など、利害は決して一致していないからだ。
それでも、「敵の敵は味方」という論理が働けば、一時的な連携が生まれる可能性はある。
現在の政局は、高市対麻生という二者対決ではない。
麻生一強体制に対し、武田氏が軸となって反麻生勢力を束ねることができるのか。
その成否こそが、高市政権の命運を左右する最大の分岐点になろうとしている。
永田町では表舞台の政策論争以上に、水面下の多数派工作が激しさを増している。その駆け引きを読み解くことが、これからの政局を理解する最大の鍵になる。