自民党の高市早苗首相と日本維新の会の吉村洋文代表による与党党首会談が終わった後の一週間。政局は想像以上のスピードで動き始めている。表向きは副首都構想をめぐる認識の違いに見えるが、その裏側では、自民党内の権力闘争と連立再編をめぐる駆け引きが激しさを増している。
その象徴となったのが、維新・遠藤敬国会対策委員長の強烈な発言だ。
「これ以上言うなら、本当のことを言わざるを得ない」「全部中身を申し上げることになる」。
一見すると、自民党内で維新批判を繰り返す萩生田光一幹事長代行らへの牽制に聞こえる。しかし、政局を読み解くと、この言葉で最も追い込まれるのは麻生太郎副総裁ではなく、高市首相その人ではないかという見方が浮かび上がる。
遠藤氏は、高市首相、木原誠二官房長官、吉村代表との4者会談に同席した当事者だ。「4人だけが知る話がある」と繰り返し強調したうえで、「全部話す」とまで踏み込んだ。
つまり維新は、「約束を守ってくれなければ、会談の中身を明らかにする」と、高市首相に強い圧力をかけているようにも映るのである。
発端は6月22日の党首会談だった。
高市首相は「都構想を含めた副首都構想を評価する」と述べ、住民投票の対象を大阪市から大阪府全域へ広げる附則の削除を要請した。これを受けて吉村代表は「高市首相は都構想に賛成した」と説明し、維新側も譲歩を受け入れたと主張した。
ところが、その後、自民党内から異論が噴出する。
萩生田氏は「評価したのは副首都構想であり、大阪都構想への賛成ではない」と説明。大阪府連関係者も同様の見解を示し、吉村氏の受け止め方を事実上否定した。
これに維新が激怒した。
遠藤氏は「連立合意の入り口を知らない人が外から騒いでいる」「我々も苦渋の決断で譲歩した」と反論し、「これ以上言うなら全部話す」と警告したのである。
維新が守ろうとしているのは、副首都法案だけではない。高市首相との連立そのものだ。
公明党が連立離脱を選択した後、その空白を埋める形で連立入りしたのが維新だった。高市政権にとって維新は、政権運営を支える重要なパートナーであると同時に、自民党内で影響力を持つ麻生氏に対抗する政治的な支えでもあった。
しかし今、自民党内では維新を連立から外し、その代わりに国民民主党との連携を強化しようという動きが目立ち始めている。
その流れを象徴したのが6月25日夜の会合だった。
麻生副総裁、鈴木俊一幹事長、萩生田氏ら自民党幹部と、国民民主党の玉木雄一郎代表、榛葉賀津也幹事長らが顔をそろえたのである。
高市首相は姿を見せなかった。
もちろん政策協議という位置づけではある。しかし、タイミングを考えれば、高市・維新ラインに対抗する新たな政治軸を印象づける会合だったと見る向きも少なくない。
比例代表45議席削減問題でも、国民民主党は慎重姿勢を示し、維新との距離を鮮明にした。高市・維新ラインと、麻生・国民民主ラインという二つの軸が、これまで以上に明確になりつつある。
さらに麻生氏は、新たな布石も打ち始めた。
7月1日に発足する「地域未来議員連盟」である。
発起人には麻生氏に加え、岸田文雄前首相、茂木敏充外相、鈴木幹事長、小林鷹之政調会長、松山政司参院議員会長ら、自民党の有力者が名を連ねる。
表向きは地方経済活性化を掲げる政策議連だが、政局の視点で見ると、その意味は小さくない。
麻生氏はすでに「国力研究会」という大型議連を持ち、自民党議員の大半を取り込んでいる。こちらは「高市政権を支える挙党体制」という性格が強い。
それに対し、新たな「地域未来議連」は、少数精鋭の実力者を集めた政局色の濃い組織だ。
岸田氏、茂木氏との連携を改めて示すことで、「ポスト高市」を見据えた布石ではないかとの見方も広がる。
もちろん現時点で、その目的が政権交代や総裁交代にあると断定することはできない。しかし、高市政権を支える勢力とは別に、新たな政治グループが形成されること自体は、今後の政局に大きな影響を与える可能性がある。
終盤国会を前に、高市首相は極めて難しい判断を迫られている。
維新との約束を守れば、自民党内の反発はさらに強まる。
逆に麻生氏の意向を優先すれば、維新との信頼関係が崩れ、「密約」を暴露するとまで警告する維新の反発を招きかねない。
衆院選で圧勝してまだ4か月。内閣支持率もなお一定の水準を維持している。しかし、その足元では、自民党内の主導権争いと連立再編をめぐる綱引きが静かに、そして激しく進んでいる。
「全部バラすぞ」。
遠藤氏の一言は、単なる威勢のよい発言ではないのかもしれない。その言葉の矛先が誰に向いているのか――そこを見誤れば、今後の政局は読み解けないだろう。