高市早苗首相が打ち出した食料品の消費税減税は、国民生活を支える経済政策であると同時に、自らの政権運営を左右する壮大な政治日程のスタートでもある。
来年4月から食料品の消費税率は1%へ引き下げられる。一方で、この措置は2年間限定とされ、2029年4月には再び8%へ戻すことが決まっている。高市首相自身も「私が責任を持って確実に戻す」と明言した。
この一言は、減税だけでなく、政権の寿命までも規定してしまった可能性がある。
もし高市首相が衆院を解散しないまま2029年春に税率を元へ戻すなら、それから1年以内に衆院選を戦うことになる(衆院の任期満了は2030年2月)。しかし、増税直後の選挙は政権与党にとって最も避けたいタイミングだ。国民が減税の恩恵を実感している間に選挙を終え、その勢いで次の任期を確保したいと考えるのが政治の常識である。
そこで今後4年間の政治日程を並べてみると、一つのシナリオが浮かび上がる。
まず今年秋には臨時国会が開かれ、減税法案が提出される。ここが高市政権最初の関門だ。
参院では自民、維新の与党に加え、今回の減税に賛成を表明している保守や与党系無所属を合わせても過半数はぎりぎりで、欠席や造反が出れば法案は否決される可能性もある。
仮に参院で否決された場合、衆院で三分の二を使って再可決するのか。それとも「国民に信を問う」と衆院を解散し、減税を争点に総選挙へ打って出るのか。小泉純一郎元首相の郵政選挙を思わせる局面が訪れる可能性も否定できない。
もっとも、高市首相が本当に今秋解散へ踏み切る可能性は高くないように思える。
その理由は、2027年秋に自民党総裁選を控えているからだ。
現在、自民党は衆院で316議席という巨大与党である。その多くは高市政権のもとで誕生した議員たちだ。とりわけ高市人気で勝ち上がった新人議員ら若手の存在は総裁選で大きな力になる。わざわざ総裁選前に彼らの議席を減らすリスクを冒してまで解散する理由は乏しい。
総裁選では麻生太郎氏が誰を担ぐのかも焦点になる。高市続投なのか、それとも茂木敏充氏や小林鷹之氏らへ軸足を移すのか。麻生氏にとって理想は、高市首相を完全にコントロールした上で続投させることかもしれない。しかし、高市首相が独自色を強めれば、新たな総裁候補を探す動きも出てくるだろう。
2027年春の統一地方選も重要な試金石となる。
自民党は今年2月の衆院選で圧勝した後、地方選で苦戦が続いている。減税開始直後の地方選で自民党が勝てば、高市人気の復活を印象づけることができる。一方で敗北すれば、「減税でも支持は戻らない」という評価が広がり、総裁選にも影響しかねない。
さらに大阪では都構想の住民投票が実施される可能性がある。維新が勝つのか、それとも敗れるのか。吉村洋文代表の進退だけでなく、自民・維新連立の将来も左右する政治イベントとなる。
そして最大の山場が2028年夏の参院選である。
ここで筆者が注目するのは、「衆参ダブル選挙」という選択肢だ。
衆院議員の任期満了は2030年2月。しかし、それまで待てば、その前年春には食料品の消費税率を8%へ戻さなければならない。
増税後に衆院選を戦うのか。
それとも減税効果が続いているうちに勝負をかけるのか。
政治家なら後者を選びたくなるはずだ。
2028年夏なら参院選が予定されている。衆院を同時解散すれば、衆参ダブル選挙となる。減税効果が続くタイミングで国民に信を問い、一気に衆参両院の多数を確保する。高市首相にとって最も合理的なシナリオは、ここにあるように思える。
もちろん、その前提条件は、高市政権が2028年まで続いていることだ。
減税法案を成立させ、麻生氏との関係を乗り切り、支持率を維持して総裁選で再選を果たす。幾つもの関門を突破しなければ、このシナリオは実現しない。
そして最後に待っているのが2029年春の「増税予約」である。
高市首相は「責任を持って元へ戻す」と約束した。しかし、その時になって景気が悪ければ、本当に増税できるのか。約束どおり戻せば国民の反発は避けられない。逆に戻せなければ「公約違反」と批判される。
どちらを選んでも政治的代償は小さくない。
だからこそ、高市政権にとって本当の勝負は2029年ではない。その前の2028年夏にあるのではないか。
減税を武器に政権基盤を固めるのか。それとも、増税という難題を前にして政局へ打って出るのか。
今後4年間の政治カレンダーを眺めると、高市首相が消費税減税を決断した瞬間、同時に「解散Xデー」まで描き始めたようにも見えてくるのである。