食料品の消費税率を8%から2年間限定で1%へ引き下げる――。
高市早苗首相が打ち出した「1%減税」は、自民党税制調査会という最大の関門を突破した。8月5日に政府の基本方針が閣議決定され、秋の臨時国会へ関連法案が提出される見通しとなった。
しかし、これで決着がついたわけではない。むしろ本当の政局はここから始まる。
今回の減税論争は、「減税か増税か」という政策論争というより、自民党内で繰り広げられる権力闘争の色彩を強めている。
いま党内には三つの勢力が存在する。
第一は、高市首相を支える「減税推進派」。
第二は、石破茂前首相や小渕優子元経産相らを中心とする「財務省路線」。
そして第三が、本音では減税に否定的でありながら表立っては動かないキングメーカーの麻生太郎副総裁である。
まるで「三国志」のような三つ巴の構図だ。
注目すべきは、税調で高市案が了承された直後、財務族が一斉に反撃へ転じたことである。
石破氏は「日本の消費税率は世界的に見ても低い」「日本の財政は世界で最悪だ」と主張し、「公約の前に日本の現状を議論すべきだ」と語った。
さらに「全員が賛成したわけではない。なぜ反対したかを記録に残すべきだ」とまで踏み込んだ。
いかにも石破氏らしい発言であるが、有権者から見れば違和感は拭えない。
自民党は総選挙で「食料品の消費税減税の実現に向け検討を加速する」と公約に掲げて戦った。
もちろん「実施する」と断定したわけではない。しかし、有権者がその言葉を読めば、「減税へ向かう」と受け止めるのは自然だろう。
反対するのであれば、公約を決める段階で堂々と異論を唱えるべきだった。
選挙が終わってから「本当は違う」と言い出せば、それは有権者への説明責任を果たしたことにはならない。
石破氏は財源論も持ち出した。財源が見つからない以上、議論を続けるべきだという。これは長年、財務省が繰り返してきた論理そのものである。
しかし、日本の財政を一般会計だけで語ることには限界がある。政府全体の資産と負債を含めたバランスシート、市場からの信認、将来の経済成長まで含めて考えなければ、本当の財政状態は見えてこない。
企業経営でも、借金だけを見て経営判断をする会社はない。重要なのは資産と信用である。財政も本来は同じ発想で考えるべきだろう。
小渕優子氏も強く反発した。「財源が示されなかった」「ツケを次世代へ回す」「そもそも公約だったのか疑問」と語り、自ら税調インナーを辞任した。ここにも財務省的な発想が色濃く表れている。
さらに「私が知っている税調の進め方ではない」と語ったことは興味深い。長年、自民党では税制は税調が決めるという文化が築かれてきた。総理であっても簡単には覆せない。税調は「政府内政府」とも呼ばれるほど強大な存在だった。
だからこそ、小渕氏の発言からは、税調の権威そのものが揺らぎ始めたことへの危機感も感じられる。
小渕氏と親しい古川禎久元法相も反対の急先鋒となった。「党内手続きを守れ」「歴代政権は政治生命を懸けて消費税を築いてきた」「減税は公約ではない」と、小野寺税調会長へ意見書まで提出した。
政治家として筋を通そうとする姿勢は理解できる。しかし、結果としてその主張は財務省路線を補強する役割を果たしている。
興味深いのは、古川氏の主張を立憲民主党のリベラル系議員まで称賛していることだ。政策を超え、「財政規律」を重視する勢力が党派を超えて存在していることが浮かび上がる。
石破政権末期、自民党内で石破おろしが強まるなか、石破首相と当時の立憲民主党の野田佳彦代表が急接近したことを彷彿させるかのような展開だ。
では、この対立の中で最も重要人物は誰なのか。
やはり麻生太郎氏である。
麻生氏は減税に賛成ではない。
しかし、高市首相とも距離がありながら、石破氏とはさらに深刻な対立関係にある。
だから今は静観している。
「総理が決めたことなら、どうぞ」という姿勢を崩さない。
これは中立ではない。最後のカードを温存しているのである。
高市政権がこのまま減税を実現できるかどうか。
それは麻生氏が最終局面でどちらへ動くかにかかっている。
もちろん、ただでは動かない。
秋の内閣改造や党役員人事で、自らの影響力を最大限確保することが条件になるだろう。
その意味で、高市減税は単なる経済政策ではない。
秋の人事をめぐる壮大な政局の序章なのである。
私は、この構図を「政界三国志」と呼びたい。
理想を掲げて突き進む高市陣営。
財政規律を掲げて巻き返しを図る石破・財務族。
そして最後まで手の内を見せず、勝敗を左右する麻生陣営。
本当の主役は、まだ姿を現していないのかもしれない。
減税法案の行方だけではない。
誰が自民党の主導権を握るのか。
この「三国志」は、秋の政局へ向けて、いよいよ本格的な戦いの幕を開けたのである。