自民党への復党願を提出した世耕弘成元参院幹事長の扱いが、単なる一議員の処遇を超え、高市早苗政権の命運を左右する党内抗争へと発展している。
表向きは「裏金問題で離党した議員を復党させるべきか」という倫理の問題だ。しかし、その水面下では、高市早苗首相、麻生太郎元首相、そして参院自民党を率いる石井準一幹事長による主導権争いが激しく繰り広げられている。
世耕氏は旧安倍派五人衆の一人として「参院自民党のドン」と呼ばれた実力者だった。政治資金問題で参院幹事長を辞任し、離党勧告を受けて自民党を追われることになったが、その逆境を利用して長年の悲願だった衆院へのくら替えを実現する。
地元・和歌山では二階俊博元幹事長の地盤を巡る激しい戦いに勝利し、二階王国の影響力を大きく後退させた。離党は世耕氏にとって失脚ではなく、新たな政治基盤を築く契機となったのである。
そして今年5月、世耕氏は自民党に復党願を提出した。
ところが、その前に立ちはだかったのが、世耕氏の後釜として現在の「参院のドン」になった石井準一幹事長だった。
石井氏は記者会見で、世耕氏について「裏金問題を主導したのは間違いない」と断じ、「政治家以前に人として信じられない」と極めて厳しい言葉で批判した。単なる慎重論ではなく、「復党阻止」の意思を明確に示したのである。
なぜ石井氏はここまで強硬なのか。
もちろん、裏金問題へのけじめという大義名分はある。しかし、それだけでは説明がつかない。
世耕氏は衆院に転じたものの、かつての「参院のドン」として、参院自民党に極めて強い影響力を残している。自民党に復党すれば、石井氏の権力基盤が揺らぎかねない。
さらに世耕氏が復党すれば、高市首相の最も強力な側近として政権中枢へ復帰する可能性を強く警戒しているとみられる。
高市氏は現在、党内で孤立を深めている。
旧安倍派五人衆のうち、萩生田光一幹事長代行や西村康稔選対委員長はすでに党執行部へ復帰したが、いずれも麻生氏との距離を縮めている。一方、高市氏に近い存在として最後まで残ったのが世耕氏だった。
両氏の関係は古い。
森喜朗政権時代には「勝手補佐官」と呼ばれた若手グループで行動をともにし、高市氏が2003年に衆院選で落選した際には、世耕一族が運営する近畿大学教授への就任を後押ししたのも世耕氏だった。経済政策でも積極財政路線を共有し、財務省への警戒感でも一致している。
世耕氏が復党すれば、官房副長官など政権中枢への起用も取り沙汰される。高市政権にとっては待望の戦略家が戻ることになる。
だからこそ石井氏は、その芽を摘もうとしているように見える。
実際、石井氏と高市政権の関係はこれまでも良好とは言えなかった。
今年の予算編成では、高市首相が年度内成立を求めたにもかかわらず、参院自民党は独自色を打ち出し、暫定予算編成へと追い込んだ。さらに石井氏は参院議員による独自グループを結成し、参院自民党の結束を固めている。高市首相は石井氏の動きに神経を尖らせてきた。
国会運営でも石井氏は、高市政権や日本維新の会が目指す政策実現に慎重な姿勢を崩していない。会期延長や衆院再可決をめぐる対応、さらには国民民主党との連立を「最も望ましい形」と評価した発言などを見ても、高市・維新路線とは距離を置く姿勢が鮮明だ。
こうした石井氏の動きは、高市包囲網の一角を担っているとの見方も永田町では少なくない。
もっとも、この復党問題の最終的な鍵を握るのは石井氏ではない。
キングメーカー麻生太郎氏である。
党紀委員会の手続きはあるものの、最終的な政治判断は党執行部が下す。そして、その執行部に最も大きな影響力を持つのが麻生氏だ。
麻生氏が高市政権を支え続けるのか、それとも党内の均衡を優先して世耕氏の復党を見送るのか。その判断は、高市政権の今後だけでなく、自民党内の勢力図そのものを左右することになる。
世耕復党問題は、一人の政治家の「復活劇」ではない。
裏金問題後の旧安倍派の再編、高市政権の求心力、参院自民党の独立性、そして麻生氏の権力掌握――。それらすべてが交差する政局の縮図なのである。
この攻防の結末は、高市政権が安倍路線を継承する体制を築けるのか、それとも党内主導権が再び麻生・参院勢力へ傾くのかを占う重要な試金石となりそうだ。