食料品の消費税をゼロにするのか、それとも1%にするのか。
一見すると、その差はわずか1ポイントにすぎない。しかし永田町と霞が関では、この1%をめぐって激しい攻防が繰り広げられている。
なぜなのか。
それは、この問題が単なる税率論争ではないからだ。そこには、高市早苗政権が選挙で掲げた看板公約を守れるのか、それとも撤回に追い込まれるのかという政権の命運がかかっている。
そして同時に、政治の主導権を握るのは官邸なのか、それとも自民党本部や財務省なのかという権力闘争の側面も色濃く映し出されている。
高市首相は総選挙で「食料品の消費税を2年間ゼロにする」と公約した。物価高対策として国民の支持を集めた目玉政策の一つだった。
ところが最近になって政府・与党内では、「ゼロではなく1%にすべきだ」という声が強まっている。
その理由として持ち出されているのがレジやシステムの改修問題だ。
関係者によれば、消費税率を0%に設定する場合、流通や小売業界のシステム改修に1年程度かかる。一方、1%であれば半年程度で対応できるため、より早く減税を実施できるというのである。
確かに一見すると合理的な説明に聞こえる。
ゼロにこだわって実施が遅れるより、1%でも早く減税を実現した方が国民生活の助けになる。そう考える人も少なくないだろう。
しかし、ここで立ち止まって考える必要がある。
本当に問題はレジなのだろうか。
そもそも、選挙で「食料品の消費税をゼロにする」と公約した時点で、システム改修に時間がかかることは把握できたはずである。
仮に0%への移行に1年必要だとしても、それは公約発表前に検討しておくべき課題だった。選挙後すぐに制度設計と法改正に着手していれば、来年春の実施に向けた準備も進められたはずだ。
ところが現実には、社会保障や税制を議論する会議体が設置され、与野党や有識者を巻き込んだ検討プロセスへと移行していった。
もちろん民主的な議論は重要である。しかし永田町では、こうした会議方式が始まると、主導権は官邸から霞が関へ移りやすい。
特に税制の議論になれば、圧倒的な専門知識と事務能力を持つ財務省の影響力が強まる。
つまり「レジ改修問題」は単なる技術的課題ではなく、「ゼロは難しい」「1%が現実的だ」という空気をつくるための政治的な材料として機能している側面がある。
では、なぜ財務省や自民党内の有力者は、そこまで1%にこだわるのか。
第一の理由は、高市政権の求心力を弱めることにある。
高市首相の最大の武器は党内基盤ではない。高い内閣支持率である。
支持率が高ければ党内の反対を押し切れる。しかし支持率が落ちれば、自民党内の実力者や霞が関との妥協を余儀なくされる。
その意味で、選挙公約だった消費税ゼロを修正させることは、高市政権に大きな打撃を与える。
「結局、公約は守れなかった」
「財務省に押し切られた」
「高市政権も従来の自民党政権と変わらない」
そうした評価が広がれば、高市支持層の熱量は確実に低下するだろう。
第二の理由は、自民党内における麻生太郎副総裁の影響力強化である。
高市首相は総裁選で麻生氏の支援を受けて勝利した。しかし政権発足後は次第に距離を取り始めた。
衆院解散の判断や選挙公約の策定では麻生氏の意向に必ずしも従わず、食料品消費税ゼロも麻生氏が慎重姿勢を示した政策の一つだった。
さらに選挙後の人事をめぐっても両者の関係はぎくしゃくし、自民党内では官邸への不満も広がった。
そうした中で発足したのが、麻生氏を中心とする巨大議連「国力研究会」である。
自民党内では、政権運営の重心が官邸から党本部へ移りつつあるとの見方も出ている。
もし高市首相が消費税ゼロを断念し1%案を受け入れれば、それは単なる税制修正では終わらない。
「麻生氏が勝った」
「官邸が負けた」
そう受け止められる可能性が高いのである。
そして第三の理由は、消費税減税論そのものを封じ込めることだ。
財務省にとって最も警戒すべき事態は、消費税引き下げが既成事実化することである。
一度でも食料品ゼロ税率が実現すれば、「恒久化すべきだ」「全品目5%にすべきだ」といった議論が勢いを増す可能性がある。
だからこそ、ゼロだけは認めたくない。
たとえ1%でも残しておけば、消費税制度の根幹は維持できる。
そのために財源論やインフレ論と並び、「レジ改修問題」が重要な論拠として使われているのである。
結局のところ、今回の争点は税率ではない。
0%は、高市首相が公約を守り、官邸主導を維持する象徴である。
1%は、財務省や自民党本部との妥協を受け入れる象徴である。
もちろん現実政治には妥協も必要だ。政策実現には制度設計や与野党協議も欠かせない。
しかし有権者の目線から見れば、選挙で掲げた公約を実行できるのかどうかは政権への信頼を左右する重要な問題である。
高市首相がこの局面でゼロ税率を守り切れば、「財務省に勝った」「公約を実現した」という強い政治的メッセージになるだろう。
逆に1%案を受け入れれば、「現実的な判断」と評価される一方で、「結局は財務省ペースだった」という見方も避けられない。
消費税をめぐる今回の論争は、単なる減税論争ではない。
レジが税率を決めるのか。
財務省が公約を書き換えるのか。
それとも、選挙で国民に示した約束を政治が最後まで守り抜くのか。
いま問われているのは、この国の政治の主導権がどこにあるのかという根本問題なのである。