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郵政改革の旗手だったヤマト運輸の「メール便」撤退と人員整理から考える「規制緩和」〜業務移管先が日本郵政であるという歴史的皮肉

ヤマト運輸が「メール便」の配送業務を委託する個人事業主約2万5000人との契約を1月末で打ち切った。日本郵政に業務を移管することに伴う対応だ。トラック運転手の人手不足に備え、主力の宅配便事業に経営資源を集中させるという。個人事業主らは強く反発している。

1990年代のヤマトのメール便参入は「郵政改革」の先駆けだった。手紙や葉書などの「信書」を郵便局以外が扱うと郵政法に抵触する。メール便は受領印を必要としないチラシやパンフレットを各戸に投函・配達するものだが、信書との区別はあいまいで、様々な論争を呼んできたが、郵便局の独占分野に風穴をあける規制緩和のシンボル的存在となった。ヤマトは郵政改革の旗手としてもてはやされた。

2001年に郵政民営化を持論とする小泉純一郎氏が首相に就任し、2005年の郵政選挙を経て、郵政民営化が実現。小泉政権で郵政民営化の旗を振った竹中平蔵氏ら規制緩和派には菅義偉、河野太郎、小泉進次郎の各氏らが加わり、日本政界の大きな勢力となった。都市再開発や労働市場、金融市場をはじめ、各方面での規制緩和は大きく進み、日本社会の姿を大きく変えることになったのである。

一方、規制緩和は大資本・大企業に有利となり、貧富の格差を拡大させた。非正規社員が急増して雇用は不安定化し、株価は上昇して資本家・大企業は潤う一方、労働者の実質賃金は伸び悩み、格差是正が大きな政治・社会問題として浮上してきたのである。

規制緩和そのものの弊害も指摘されるようになった。水道や交通機関(地下鉄やバス)をはじめ公的インフラの民営化が全国各地で進んだものの、価格上昇や行政サービスの低下が指摘されるようになった。ひと足先に民営化が進んだ欧米で行政サービスが劣化している現状も伝えられ、民営化路線への反発が強まってきた。大阪維新の会が進めた地下鉄民営化をめぐる論争は代表事例といっていい。

現在の永田町では、一般ドライバーが自家用車を使って有償で客を運ぶ「ライドシェア」の解禁が大きな争点となっている。推進論者は菅氏や河野氏、小泉氏らだ。一方、タクシー業界には反発が根強く、自民党をはじめ政界には治安悪化の懸念からも慎重論も広がっている。小泉政権の郵政民営化にはじまる規制緩和派vs反対派の論争は、自民党内の対立軸にひとつといえるだろう。

その最中に浮上したヤマトの「メール便」撤退と大幅な人員整理。「メール便」の委託先がかつて郵便事業の独占をめぐり激しく対立した日本郵政であるのは、歴史の皮肉としかいいようがない。

民間企業は規制緩和の流れに乗じて新規分野に参入しても、経済・社会情勢が変わると利益を優先して撤退し、利用者や労働者は振り回されたあげく、最終的には価格上昇やサービス低下、雇い止めなどを受け入れるしかないという現実を改めて突きつけられたといえる。

企業は経済・社会の変化に応じて柔軟に経営方針を変化させていかなければ、激しい競争を生き抜けない。大企業としての社会的責任を果たす責務があるものの、経営方針を自ら決定する自由は否定できない。

それを踏まえ、将来を十分に見越した上で、規制緩和の是非を判断していく必要がある。最大の責任は、政策を決定する立場の政治・行政にあるといえるだろう。

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