衆院予算委員会が始まり、簗和生農相をめぐる疑惑追及が焦点となる。野党は簗農相を追い詰め、高市早苗首相を揺さぶることができるのか。
ここで思い出したいのが、過去に繰り返されてきた野党の疑惑追及の失敗である。疑惑を追及すること自体が悪いのではない。問題は、追及する側が正義を振りかざすあまり、世論の感覚から離れてしまうことだ。
「未納三兄弟」と偽メール事件
2004年、小泉政権下で閣僚らの年金未納が相次いで発覚した。民主党の菅直人代表は「未納三兄弟」と批判したが、菅自身にも未納が発覚。ブーメランが直撃し、代表辞任に追い込まれた。
なぜ失敗したのか。相手を追及する前に、自分の足元を確認していなかったからだ。さらに、年金制度の問題が政治家個人の未納スキャンダルに矮小化された。自民党側では福田康夫官房長官が先に辞任し、危機管理でも後手に回った。
2006年には偽メール事件が起きた。民主党の永田寿康衆院議員が、ライブドア事件をめぐり、堀江貴文氏から自民党の武部勤幹事長の次男側への資金提供を指示したとするメールを国会で取り上げた。
前原誠司代表や野田佳彦国対委員長も追及を後押ししたが、メールの信憑性を立証できず、永田氏は議員辞職。前原氏と野田氏も責任を取った。
情報提供者の説明をうのみにし、十分な裏付けを取らないまま疑惑を断定したことが致命傷となった。
高市首相は疑惑追及を乗り切ってきた
2023年には、立憲民主党の小西洋之参院議員が、放送法の政治的公平性をめぐる総務省の行政文書を公表。当時の総務相だった高市氏と総務省幹部のやりとりを追及した。
ただし、これは偽メール事件とは違う。総務省は文書そのものを行政文書と認めていた。問題は、文書の存在と記載内容の正確性、そして政治的責任をどこまで立証できるかだった。
追及は高市氏の進退をめぐる攻防へと傾き、放送行政のあり方という本来の問題が見えにくくなった。
高市政権下のネガキャン動画疑惑でも、告発内容や動画の時系列をめぐる問題が浮上し、追及そのものへの評価が割れた。高市氏はこうした攻防を乗り切ってきた。その成功体験が、今回の簗問題でも強気の姿勢を支えているのではないか。
簗問題で野党が勝つ条件
では、野党はどうすればよいのか。
第一に、内部文書やメモなど、疑惑を裏付ける証拠を積み上げることだ。疑惑の重大性を叫ぶだけでは足りない。
第二に、簗農相の更迭要求と、疑惑の真相究明を分けることだ。問題は、国交省への「圧力」があったのかにとどまらない。地元で有権者に対して「恫喝」的な発言をしただけでも十分に政治責任を問えるだろう。攻め方を慎重に選ぶ必要がある。
第三に、道路予算の配分という行政の仕組みそのものを問うことだ。政治家の意向で予算が左右されない制度をつくる。そこまで踏み込めば、簗農相の進退だけにとどまらない政治改革につながる。
正義だけでは政治は動かない
疑惑追及には三つの鉄則がある。
正義を振りかざさない。世論を味方につける。そして、目的を明確にする。
政治を動かすのは、真実や正義だけではない。世論であり、権力闘争であり、戦術である。真相究明と政局を混同すれば、追及する側が思わぬ反撃を受ける。
簗農相を辞めさせることがゴールなのか。高市内閣の支持率を下げ、解散戦略を封じることなのか。それとも野党共闘の足場を築くことなのか。
目的によって、取るべき戦術は変わる。
野党は簗問題を単なる大臣のスキャンダルで終わらせてはならない。道路予算の透明性を高め、政治家と行政の関係を変えるところまで追及できるか。
疑惑追及は、正義を叫べば勝てるほど甘くない。野党の力量が問われている。