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新聞記者やめます。あと76日!【やっぱり会社に居座る方が得なの?】

私が応募した早期退職制度の申し込み締め切りまで一週間を切った。対象は50歳以上の全員と45〜49歳の管理職を除く社員である。会社は今回の目標を100人以上の応募としている。私は有給休暇消化に入り出社していないので詳しい情報を持ち合わせていないが、応募が殺到しているという状況ではなさそうだ。

ただでさえ、新聞記者はつぶしがきかない。

特ダネ記者としてならした私の元上司は数年前、居酒屋を全国展開する一部上場企業への転身を遂げ、瞬く間に取締役になった。彼は「新聞記者はつぶしがきかないというが、そうでもないぞ。今起きていることを短時間で的確に論点整理し、社長に選択肢を示す。そうしたことができる人はそう多くない」と語っていた。彼には確かにそうした才があったが、そうした「成功例」は極めて稀だ。

しかも、コロナ禍である。再就職先がそんなに簡単に見つかるはずはない。尻込みする人が多いのは至極当然であろう。

私が応募したことを知って連絡してきてくれた先輩諸氏の多くはまず「驚いた」と言い、その後、自らが応募に踏み切れない事情をあれこれ話してくれる。私としては7年前の福島原発事故をめぐる調査報道でデスクを更迭され、そのあとは会社に睨まれながらもツイッターで独自の発信を続けてきただけに、「あいつはきっと応募するだろう」とみられているとばかり思っていたが、彼らの眼中にはそもそも「早期退職」という選択肢はなく、だからこそ私の応募も「想定外」だったのだろう。

会社は明治12年の創業以来最悪の赤字に転落し、給与の大幅削減に踏み切った。今回の早期退職制度の上乗せ退職金は削減前の給与を算定基準としており、今後このような「好条件」の早期退職制度は二度と実施されないだろうと強調している。社員たちも近年の発行部数の激減をみて、さらなる給与削減は避けられないと感じている。

会社は大胆な人事配置の見直しも宣言している。新聞社は記者職とビジネス部門を別々に採用しており、新聞記者が新聞編集以外の部署に移ることは稀だったが、これからはそうした人事異動も断行すると宣言することで、人件費が高く誇りも高いベテラン記者たちに早期退職制度への応募を促す狙いがあるのだろう。

それでも応募が少ないとしたら、給料が下がったとしても、記者職を外されたとしても、退職するよりはマシという現実的な判断があるから。したたかにソロバンをはじくと、日本社会はまだまだ組織に属する「サラリーマン」の方が経済的に安定して恵まれているのだ。

年収や福利厚生だけではない。年功序列・終身雇用型の会社では、そこにとどまるほうが体面が保たれ、居心地がよいのである。ある先輩は「60歳をすぎて再雇用となると年収は4割になる。それでも65歳まで居座った方が得だよ。この会社で長く勤めてきて、それなりに文句を言われず大きな顔で過ごせるポジションをようやく獲得したのに、他の会社に移ったらそういうわけにはいかないでしょ」と言っていた。それが多くのベテラン社員の本音ではないか。

経済的に損か得か。どちらが体面を守れるか。そうした価値基準に立てば、私のように早期退職制度に応募するのは想定外の「愚行」ということになる。そう考える会社員が、私の新聞社ではなお圧倒的多数派なのだ。

一方、新聞社の経営状況をみると、大胆な人員削減を実行できなければ、近い将来に立ち行かなくなる。経営陣はまったなしの状況だ。ベテラン記者たちの体面を傷つけてでも早期退職制度への応募を増やそうとするはずである。早期退職の募集期間を4月の人事異動の時期と重ねたのも、地方への転勤など意に沿わない人事異動を内示することで早期退職の決断を促す狙いがあったのではないか。

どうやって居座るかという人々と、どうやって辞めさせるかという人々の神経戦は今後、ますます激化していくだろう。会社の中はますますギスギスするのかな。

コロナ禍の日本企業の多くで、似たような神経戦が繰り広げられているに違いない。残念ながら日本は人口が減っていく衰退社会、縮小するパイを奪い合う内向き社会なのだ。

百戦錬磨の先輩諸氏たちは、そうしたことは百も承知である。私は「退社して働き口はあるのか」「収入を得られるのか」というリスク以上に、ギスギスした職場に身を置き続けて心身の健康を損なうリスクのほうが大きいと思うのだが、人生経験豊富な彼らは「経営陣の腹はそこまで座っていないし、実行力もない」と高を括っているようにもみえる。あまり目立たないように身を潜め、定年まで逃げ切るのが賢明であるという判断だ。

さて、どうなるか。私はその神経戦を見届けることはできない。5月末に退職した後も風の便りに神経戦の途中経過は入ってくるだろうが、そのときはすでにその戦いの行方に関心を失っていることだろう。多くの読者がそのようなことはちっとも気に留めていないのと同じように。

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