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新聞記者やめます。あと8日!【報道の自由度ランキング回復へ、まずは新聞社内の「言論の自由」を取り戻そう】

国際的なジャーナリスト団体「国境なき記者団」が発表する今年の報道の自由度ランキングで、日本は67位だった。主要7カ国で最下位である。42位の韓国や43位の台湾も大きく下回り、「記者が権力監視機関として役割を十分に果たすことが困難になっている」「新首相就任後もナショナリストの右派が記者に対する不信をかき立てている状況に変化はなく、自己検閲が依然続いている」と酷評されている。

民主党の鳩山政権だった2010年は11位だった。自民党の安倍政権が復活した2013年に53位に急落し、じわじわ順位をさげてきた。安倍・菅政権下の露骨な「報道機関への圧力」と、報道機関による「自己検閲」の結果であろう。

このランキングの急降下は、新聞社で政治報道や調査報道に携わってきた私の感覚にピタリと一致する。民主党政権時代、私の所属する新聞社を含め「政権批判」に臆する空気はまったくなかった。時に過剰なほどの政権批判が展開された。それはひとえに民主党の政権基盤が弱く、次の総選挙で自民党が政権に復帰する可能性が高かったからだ。

二大政党制で野党の力が弱く政権交代のリアリズムがなくなり、与党の支配が延々と続く様相になると、政権は尊大となり、報道に圧力を加え、報道側も萎縮し、政権にすり寄るという悪循環に陥る。ふたつの政治勢力が均衡して政権を競い合うことで権力の腐敗を防ぐという二大政党制の理念とはかけ離れた現実が今の日本では起きているのだ。

2012年末に自民党が政権復帰し、安倍政権が誕生すると、報道各社の「政権すり寄り」は日増しに露骨になっていった。朝日新聞が2014年に「慰安婦」報道で安倍政権を含む右派勢力に激しく攻撃され、原発事故をめぐる「吉田調書」報道の取り消しに追い込まれた後、報道機関の萎縮ぶりは加速した。「客観中立」「不偏不党」を口実にした「両論併記」が溢れ始めたのである。

圧倒的な情報量と発信力を持つ政府の主張と、それを批判する人々の主張を「両論併記」したら、政府の主張が優勢になるのは決まっている。常に弱者・少数者の視点に立ち、巨大権力を監視してその暴走を防ぐのが、民主主義社会における報道機関の責務であることは「世界の常識」なのに、権力からの攻撃を恐れ、「客観中立」を隠れ蓑にして「事なかれ」「自己保身」に明け暮れる安倍政権下のマスコミの姿は、民主社会の報道機関とは思えないほど醜悪であった。「報道の自由度」はあれよあれよという間に、隣の韓国に遠く及ばないところまで転落してしまったのである。情けない限りだ。

私自身ここ数年は新聞社のなかで息苦しさを肌で感じるようになった。「吉田調書」報道でデスクを更迭された後、2016年に職務外活動としてTwitterを始めることを会社に届け出て、社名を名乗らず個人名と「ジャーナリスト」の肩書だけで発信を始めたのだが、当初は自社の新聞記事を批判をすると、編集局長室などから何度も「注意」を受けた。「職務外活動」であるにもかかわらずである。私のツイートのどこがどういう理由で「注意」に値するのかという明確な理由を論理的に示すことさえなく、ただ漠然と「注意」するのである。

記者個人が会社の意向を「忖度」して自己規制することを促しているのだと私は受け止め、一切の忖度をしなかったが、そのような「言論統制」が言論機関を名乗る新聞社のなかでまかり通っていることに大きく失望したのだった。

私は政治部や特別報道部のデスクを歴任し、「吉田調書」報道でデスクを更迭された後はジャーナリストとして独立することを目指してTwitterを始めたから、もはや自分の人事へのこだわりもなく、自己規制を促す上からの「圧力」を気にすることはなかった。でも、これからも会社のなかで新聞記者としてやっていこうと思う中堅・若手たちにすれば、度重なる上からの「圧力」を跳ね返すことは相当な覚悟が必要であろう。その結果として有能な記者たちが自己規制を強いられているのは見るに堪えない。

現に個人の主張をTwitterで鮮明に発信している後輩たちが、記者としての実力も実績もありながら、地道に追い続けてきた取材現場を外され、遠方に異動させられたり、記者職を解かれたりする露骨な人事を目の当たりにすると、新聞社内で「萎縮」が広がるのは当然の帰結であると思う。「鮫島さんが会社を去ると、防波堤がなくなり、ますます記者個人の発信へのプレッシャーが強まる」といった声が後輩記者たちから寄せられている。

そうした引き締めは報道機関・言論機関の自殺行為である。読者の信頼を失うだけだ。国家権力からの「報道の自由」を守るためにも、まずは新聞社内での「言論の自由」を確保しなければ話にならない。新聞社が「自由な社風」を取り戻し、新聞記者がのびのびと発信できるようになることが、報道の自由度ランキングを引き上げる第一歩である。

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