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新聞記者やめます。あと6日!【退職前にどうしても言っておかねばならないこと。新聞社が東京五輪スポンサーになる罪。そして…】

現役の新聞記者のうちにどうしても言っておかねばならないことがある。巨大国家プロジェクトである東京五輪のスポンサーに、権力監視を責務とする大手新聞社が横並びでなっていることだ。

東京五輪には巨額の税金が投入されている。新聞社が最も監視しなければならないテーマだ。しかも安倍晋三首相が国際社会に向かって福島第一原発の汚染水は「アンダーコントロール」と大見えを切って誘致したものだ。その後、日本の招致活動をめぐる「裏金問題」が浮上したうえ、五輪予算は右肩上がりに増え続け、大会運営を仕切る電通の「五輪利権」は疑惑の的となってきた。そこへコロナ禍が襲いかかり、1年延期になったのだ。菅義偉首相は今年秋までに行われる衆議院選挙と自民党総裁選挙を乗り切るため「東京五輪開催」を最優先にする姿勢で、本来は全力投入すべきコロナ対策が二の次になっている。

東京五輪には膨大な「利権」がぶら下がっている。それは「政権維持の道具」であり「政治案件中の政治案件」なのだ。これ以上、新聞が監視し、追及し、その実態を国民に伝えるべきテーマはない。

ところが、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞の全国紙5紙と北海道新聞は、東京五輪スポンサーとして五輪を推進する立場にあるのだった。スポンサーが「権力監視」の役割を果たせると信じるほうが難しい。しかも大手新聞社が「横並び」で国家プロジェクトを推進している姿は、先の大戦の大政翼賛会を彷彿させ、どこまでも気味が悪い。

これら新聞社は、東京五輪中止を求める世論が大勢を占める今もなお、東京五輪中止を明確に主張していない。報道機関が国家プロジェクトのスポンサーになった弊害は誰の目にも明らかだ。「失われた新聞への信頼」は絶大なものであろう。その責任をどう取るつもりか。

なぜスポンサーになったのか。誰の責任でスポンサーになることを決めたのか。新聞各社は五輪招致以降の社内の取り組みをしっかり自己検証し、公表して自浄作用を示すべきである。その誤りを率直に認め、スポンサーになる決断をした幹部たちの責任を問うべきだろう。新聞への信頼回復のため避けては通れない道だ。うやむやにしたら安倍・菅政権と同じである。

しかし、彼らにその気はさらさらなさそうだ。5月24日発売の週刊ポストのアンケートに対する各社の対応をみると、そう思わざるを得ない。(Yahoo!ニュース『五輪スポンサーに雁首揃える大新聞6社に「開催に賛成なのか」直撃してみたら「すごい回答」が返ってきた』参照)

アンケートの質問は①7月開催に賛成か、②開催の場合は無観客にすべきと思うか、③有観客で開催の場合、社員に会場での観戦を推奨するか、という3つだった。回答は以下のとおりである。

読売新聞グループ本社「当社は『安全な大会の実現に万全を尽くすことが大切だ』と社説で繰り返し述べています。ただ、観客の有無については東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の結論が出ていない段階で、お答えしかねます」

朝日新聞社「お答えをいたしかねます」

毎日新聞社「新型コロナウイルス変異株による感染が拡大する中での東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催につきましては、選手やスタッフ、観客の安全が確保される一方で、医療体制に悪影響を与えることがあってはならないと考えており、5月1日付社説でも取りあげたところです」

日本経済新聞社「お答えはしません」

産経新聞社「回答は差し控えさせていただきたいと存じます」

北海道新聞社「ご回答を控えさせていただきます」

呆れ返るほかない。新聞業界の一人として情けない限りだ。

まずは読売。「観客の有無については東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の結論が出ていない段階で、お答えしかねます」という回答には目を疑った。当局の「結論が出ていない段階」で「お答えしかねます」というのが許されるのなら、政治も経済も事件も何も報道できないではないか。これが報道機関のコメントだろうか。

次に毎日。「医療体制に悪影響を与えることがあってはならない」と当たり前をコメントしている。菅首相らと同じ言い分ではないか。国民の反対を無視して五輪開催に突き進む政府を厳しく批判できるはずがない。

残る朝日、日経、産経、北海道にはただ呆れるほかなかった。朝日の「お答えをいたしかねます」や産経の「回答は差し控えさせていただきたいと存じます」は、不正や疑惑が噴出するここ数年の国会で、疑惑の渦中にある閣僚や官僚が繰り返した発言のテンプレートではないか。「お答えしかねる」「回答は差し控える」という無責任極まりない答弁で「説明責任」を放棄する閣僚や官僚の姿勢をこれまで批判してきたのではなかったのか。これら新聞は、閣僚や官僚の「説明責任」放棄を批判する資格を失ったのではないか。日経の「お答えはしません」に至っては、もはや開き直りさえ感じる。

東京五輪のスポンサーになったこと以上に、「お答えいたしかねる」「回答は差し控える」と平然と言い放った罪のほうが重いと私は思っている。これは報道機関の自己否定である。このような回答を目の当たりにして、新聞社内の記者たちが抗議の声をあげないようでは、「新聞の信頼回復」は夢のまた夢であろう。

私は「あと6日」は現役社員である。新聞社を去る立場で気が引けるところもあるが、それでも現役社員として声をあげておかねばならないと思い、急遽、きょうの原稿を執筆した次第である。

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