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新聞記者やめます。あと87日!【山田真貴子内閣広報官の辞職は望月衣塑子記者の勝利である】

森喜朗元首相が女性蔑視発言で東京五輪組織委の会長辞職に追い込まれたのに続いて、「飲み会を絶対に断らない女」の山田真貴子内閣広報官が接待問題で辞職した。

世の中、うねりをあげて動いている。7年8カ月の間、数多の疑惑にも微動だにしなかった安倍長期政権の日々が遠い昔のようだ。

権力私物化、虚偽答弁、不正隠蔽…。溜まりに溜まった政権の膿。政治は変わらないと諦めかけていた世論。日本社会を沈滞させていた岩盤がコロナ禍をきっかけに音を立てて崩れていく。

沈鬱な日本社会を映し出していたのが菅義偉首相の記者会見だった。その議事進行役を務めてきたのが「飲み会を絶対に断らない女」の山田広報官である。

官邸記者クラブの政治部記者たちは事前に質問内容を山田広報官ら官邸側に伝える。それをもとに首相秘書官が答弁を用意し、菅首相がそれを読み上げる。権力者と政治記者の癒着、癒着、癒着。まさに出来レースだ。

質問者を指名するのは山田広報官。首相が困る質問をしそうな記者は外す。首相を忖度して手ぬるい質問をする記者を指名する。まさにアリバイ作りの会見だった。

再質問も許さない。記者の質問は一方通行だ。菅首相は不都合な質問には答えない。はぐらかす。それでも次の質問に移る。首相にとっては何を質問されても受け流すことができる「楽勝」の会見だ。

そして最後は山田広報官が一方的に記者会見を打ち切るのである。

つまらない猿芝居を毎回見せられてきた国民はたまったものではない。こんなものは記者会見とは呼べない。首相と政治部記者たちの馴れ合いだ。そのうえに首相と官邸キャップの「オフレコ飲み会」や首相と首相番記者の「パンケーキ朝食会」を見せられたら、「癒着」の二文字が浮かばない人は皆無であろう。

日本の政治や政治報道の劣化を象徴するのが、安倍政権の7年8カ月そして菅政権にも受け継がれた首相会見なのである。

その進行役を務める山田広報官が職を追われた。醜悪な首相会見を改革する千載一遇のチャンスが巡ってきたのだ。

官邸記者クラブは今こそ一致結束し、新しい内閣広報官に首相会見の改革を迫ってほしい。議事進行権を取り戻してほしい。司会役は内閣広報官ではなく、記者側が務めるべきだ。質問の事前通告はやめる。再質問を認める。質問が尽きるまで続ける。新しい内閣広報官にこれらの実現を強く迫る。拒否されたら一致結束し首相会見をボイコットしたらよい。ここは正念場。世論の怒りが噴出している今、首相会見の改革を一挙に進めなくてはならない。官邸と官邸記者クラブの馴れ合いに終止符を打ってほしい——。

私はそうした思いを以下のツイートに込めた。

正念場だ。テレビ新聞の政治部長や官邸キャップは、記者生命がかかる重大局面に立っていると自覚してほしい。政治部記者OBとして彼らの奮闘を心より願った。

期待を込めて見守った3月5日夜の首相会見。結論からいえば、内閣広報官は代わっても首相会見の進め方は何もかわらなかった。あいかわらず官邸側が都合のよい記者を指名し、再質問もない。そんな議事進行に政治部記者たちは抵抗せず淡々と従っている。

私は首相会見終了と同時に以下をツイートした。

官邸と官邸記者クラブの馴れ合いに真正面から挑んできたのが東京新聞の望月衣塑子記者である。安倍政権時代、1日2回の菅官房長官会見に社会部記者として乗り込み、政治部記者たちの「忖度質問」をよそに菅官房長官を激しく追及したのだ。

菅官房長官は望月記者を露骨に嫌った。官邸側の司会者は望月記者が質問している最中に「質問は簡潔にしてください」と口をはさみ、妨害しはじめた。望月記者の質問回数を制限するようにもなった。官邸記者クラブの政治部記者たちはそれを黙認した。そればかりか、望月記者に厳しい質問を控えるようにプレッシャーをかける者もいた。望月記者と連帯して官邸に会見改革を迫るどころか、官邸に加担して望月記者の質問を封じる側に回ったのである。

「忖度官僚」顔負けの「忖度記者」。権力者と政治部記者の最悪の関係がここにある。望月記者の孤軍奮闘は映画にもなり、官邸と政治部記者の癒着を可視化した。多くの人々が官邸と政治部記者の歪んだ関係を知ることになった。

安倍長期政権下の望月記者の孤独な闘いなくして、今回の山田広報官の辞職はなかったと思う。総務省を舞台とした一連の接待問題のなかで、山田広報官にあれほどの脚光が集まったのは、「出来レース」の首相会見を仕切る存在だったからだ。望月記者の孤軍奮闘が首相と政治部記者が馴れ合う無味乾燥の記者会見の印象を多くの人々の脳裏に焼きつけていたのだ。その炎に「飲み会を絶対に断らない女」発言が油を注いだのだ。

山田広報官の辞任は望月記者の勝利である。菅首相(前官房長官)に対する望月記者の勝利でもある。私にはそうとしか思えない。

次は官邸記者クラブの政治部記者たちが記者魂を取り戻す番のはずだった。山田広報官の辞職をきっかけに、官邸との馴れ合いを素直に猛省し、権力監視の責務を再確認し、一致結束して新しい内閣広報官に会見改革を突きつけるべきであったのだ。

彼らはこの絶好の機会を逃した。首相会見はこれからも「出来レース」でありつづけるだろう。政治に対する国民のしらけムードはますます広がるだろう。政治報道への信頼はますます失墜していくだろう。

官邸と政治部記者の馴れ合いに、もはやつける薬はない。彼らに自浄作用はない。官邸記者クラブの解体を真剣に議論する時である。

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