“フラミンゴ革命”は、バルカン半島にある小さな国アルバニアで起こっている、国民レベルの大規模な継続抗議です。
イタリアとギリシャを隣国とするアルバニアの状況は、日本と似ているようです。“フラミンゴ革命”は、「あきらめかけていた…膠着した政治状況を打破できる」という、思いを抱かせてくれます。
環境問題をきっかけに、長年のうっ積した不満が爆発したようです。政治の行方が“外国民間企業の政治支配”や“植民地的支配”に進んできたのでは、という疑心悪鬼や怒りを感じます。
豪州のNHK相当のABCやSBS 、そして中東専門メディアをもとに考えてみたいと思います。
抗議では「この国は売り物ではない」「腐敗した政治家に決定権は無い」「首相は辞任しろ」「イバンカ(トランプ氏の娘)、サザン島はお前の父親の次のエプスタイン島にはならない」という声が上がります。(こちら抗議動画)
次のX投稿は、抗議の様子です。
「アルバニアをパレスチナにするな」という声もあります。パレスチナ問題を長年調査報告し米国に制裁を受けている、国連特別報告者のアルバニージさんは、次のようにXに投稿していまた。
アルバニアでは、国民(一般市民)が、(1)国際的な金権政治と国家主権への攻撃との関連性を理解し、(2)後者を前者から守るために団結した。これは、人々が自己決定権を最大限に活用し、かつそれを維持している事例研究である
なぜなのか? これらは、一体どういうことなのでしょうか?
政治家、財閥、ビリオネアの陰謀か?
事の発端は、トランプ大統領の娘イヴァンカ・トランプ氏とその夫ジャレッド・クシュナー氏が、アルバニアの島と保護湿地を買収し高級リゾート建設を目論み、アルバニアのラマ首相がそれを遂行していることが明らかになったことでした。戦略的投資家としての地位が与えられ、クシュナー氏の会社は建設期間中の10年間、〝税金を一切支払わない”、という優遇合意だそうです。
首相は強硬姿勢を見せ「街頭に50万人の抗議者がいても、私かを止めることはできない」と豪語しました。
また、ラマ首相は、1月にイスラエルを訪問しクネスト(イスラエル国会)で演説する機会を与えられました。彼はネタニヤフ首相に対し、「世界最高の演説家の一人」の前では足が震えるほどだと語り、イスラエルのシオニスト政権を称える言葉を明らかに誠意を込めて誓っていました。
中東専門家のソウマヤ・ガンヌーシさんは、この演説を次のように説明しました。
「(ラマ首相は)単に快く受け入れ役を務めているだけではない。彼はイスラエルのイデオロギー的な参加者でもある。~略~それは外交的なやり取りというよりは、忠誠心を示すパフォーマンスであり、世界の多くがジェノサイドと呼ぶ軍事作戦を指揮する人物の前に、一国の政府首脳がひれ伏す姿だった」
「2021年、彼(クシュナー氏)はナット・ロスチャイルド所有のヨットに乗ってその島を訪れ、同じ船上でアルバニア首相と会談し、開発プロジェクトの調査を開始した。ビリオネア(超裕福層)、男爵(財閥)、そして政治家(首相)が船上で、他人の土地をどうするかを話し合っている。非公式な雰囲気こそが重要なのだ。こうした会話は議会で行われるべきものではない」
2026年、その作戦が公に明らかになり、ラマ首相は、民主的な国民デモを“ハイブリッド戦争だ”と呼び、“イスラエルとアルバニアの敵だ”とも呼びました。
伝統と環境の破壊と喪失
買収予定地は、オトラント海峡にあるアルバニアのサザン島Sazan Islandと海岸沿いのヴィヨサ・ナルタ潟湖 Vjosa-Narta で、ヨーロッパでもっとも手つかずの自然や生物が残されている、保護された自然河川、沿岸湿地と潟湖群です。毎年アフリカとヨーロッパの間を移動する数百万羽の渡り鳥にとって重要な回廊で、絶滅危惧種のアザラシ、ウミガメ、フラミンゴの生息地です。長年守ってきたこの環境や伝統が壊されるという危機感が高まりました。
アルバニアの海辺は法律で公共財に指定され、みんなのものですが、布石を打つように2024年に法律が変えられ、民間に売却されると、高い料金を支払える裕福層しかアクセスできなくなります。
「アルバニアをパレスチナにするな!」の意味は?
停戦が結ばれているはずのパレスチナやレバノンへの攻撃は激しさを増し、残酷さは想像を絶するものです。
前述の中東政治専門家のソウマヤ・ガンヌーシさんは次のように説明しています。
パレスチナ人は、バルフォア宣言(第一次世界大戦後1917年、イギリスが、パレスチナにユダヤ人の“民族的郷土”を建設することを支持した書簡を、シオニズム(ユダヤ人国家建設と拡大運動)指導者であるロスチャイルド卿宛てに送ったこと)を植民地主義の典型例として長年見てきた。
権力者たちが、他民族の故郷の運命を、彼らの知らぬ間に、同意も得ずに決定したのだから。当時も今も、影響力のある人物たちは、戦略的機会、開発、そして壮大な構想といった言葉を用いて土地問題を議論してきたが、それらの構想は、最も影響を受ける人々から遠く離れた場所で練られたものだった。
パレスチナは、簡単に手放せるもののように扱われてきた。多くのアルバニア人は、ほぼ同じように扱われているのではないかと危惧している。
軍事的征服ではなく、金銭、影響力、そして民主的な監視の目を逃れるエリート間の関係を通じて行われるからだ。~略~
政治的な関わりとコネを持つ民間資本が、国家資産に支えられ、従順な政府によって促進され、開発と機会という言葉に覆い隠され、これまで一度も「ノーNo」と言われたことがなく、今も言われることを期待していない者たちは、自信をもって国境を越えて移動し、ビジネスを展開し広げているのである。
アルバニアの海岸が、民間のものになれば、人々は、パレスチナのように塞がれてしまいます。
またホルムズ海峡のようにオトラント海峡(アルバニアとイタリア間)にあるサザン島は、歴史的に地域の戦略的な軍事・経財の要衝です。そこを制する者は、その周辺国をコントロールことを可能にします。もし、民間企業がそこを支配すれば、その国々に影響を及ぼしかねません。
数十年にわたり秘密裏に厳重な警備体制が敷かれた基地として運営されてきたサザン島は、難攻不落の要塞とされます。この島は核攻撃にも耐えうるよう設計された、歴史的に強固な要塞が築かれ、3千を超える掩蔽壕(シェルター)と約16キロメートルに及ぶトンネルからなる広大なネットワークは、重砲を用いて狭い海峡を制圧するために設計されているそうです。核戦争でも裕福層のための格好の防衛基地となり得るでしょう。(こちら参照)
これを、トランプ大統領の娘と娘婿の会社が手に入れるとは、何を意味するのでしょうか?
トランプ大統領、ネタニヤフ首相、王家、財閥との関わりは?
第50回で取り上げましたが、トランプ大統領ファミリーは、その就任以来、世界各国でビジネスを広げ、利益を上げていることを書きました。
トランプ氏の義理息子で、ユダヤ系のジャレッド・クシュナー氏は、イスラエルのネタニヤフ首相と幼少の頃から親しく、自宅に寝泊まりするほどの間柄だと言われます。首相の政策を支持し立案する支持者でもり、クシュナー家は、占領下のパレスチナの土地に建設された入植地のプロジェクトや、イスラエル軍に寄付を行ってきたそうです。
クシュナー家もトランプ家同様に不動産業を営み、現在はアフィニティ・パートナーズ(プライベート・エクイティ(PE)会社:主に投資で利益を得る)を経営し、中東のサウジアラビア・UAE・カタールから大きな投資を得ているとされます。
近隣のセルビアでは11月、国会で、クシュナー家と関係のある投資会社が支援するベオグラードの高級開発を可能にするための特別法を可決しましたが、その1か月後、検察は、政府閣僚を含む4人を、そのプロジェクトに関連した職権乱用と文書偽造の容疑で起訴しました。その後、クシュナー氏は計画されていた投資から撤退しました。同様の犯罪が、アルバニアでも疑われているのでしょう。
アルバニアでも現在、汚職対策検察官が、2024年に環境保護区域での観光開発を容易にするために政府が行った法改正について捜査を進めているそうです。
クシュナー氏は、不動産や投資を営み、政治や外交の経験が無いにも関わらず、トランプ大統領に、和平特使という肩書を与えられ、トランプ政権を代表してロシアとウクライナ、パレスチナ、イランと交渉を行っていました。
彼はトランプ氏にガザの復興の創始者メンバーにも任命され、“新ガザの計画”を発表していました。ガザは、ほとんどが焦土化しイスラエルが60%占領し、ネタニヤフ首相は、70%、80%と占領を進めると発表しました。「クシュナーは、ガザ計画から利益を得て、パレスチナ文化をい消し去ろうとしている」「パレスチナの主体性は否定されている」「これが企業、特にアメリカ企業のやり方だ。彼らは災害を投資の機会と捉える」というような非難があります。(こちら参照)
小さな国アルバニアで強まる抗議は、どのような展開を広げるのでしょうか…。
アルバニアの人々は、与党にも野党にも期待できない選択肢が無い、行き詰まった状態にあるようです。長年の溜まった不満は、“ 破られる約束・選挙操作・腐敗(裏金・利権等)・司法の崩壊・低賃金と移民・メディアの乗っ取り+プロパガンダ・自己宣伝の海外政策・大麻の悪害 ”等、民主主義の崩壊と独裁的政権への変容にあるようです。(こちら参照)
6月10日現在も続いているデモ行進と抗議は功を奏し「アルバニアの抗議者たちにとって大きな勝利だ!アルバニア政府は、街頭での揺るぎない民衆革命を受け、クシュナーとイヴァンカのプロジェクトの中断を発表した!人々は、プロジェクトが完全に中止され、占領者が追放され、裏切り者が責任を問われるまで、自宅に戻ることを拒否する!」というXの投稿が注目を集めていました。
日本では…
日本では、主に中国企業による土地の買収、例えば、それによる釧路湿原でのメガソーラーの乱開発の影響で、タンチョウや絶滅危惧種のキタサンショウウオなどの重要な生息・生育地が脅かされているとききます。中国・米国は、政治的には敵対しているように見えても、ビジネス・技術などで関わり合いがり、イスラエルと関係するという共通点もあります。これらが、将来何を意味するのか? 気になるところです。
終わりに~制裁に負けない人々~
先週は、テニスの全仏オープンが閉会し、そしてもうすぐサッカーのワールドカップが始まります。スポーツの場にも政治やその制裁が持ち込まれています。
全仏オープンでは、ロシアは国旗掲揚や国歌斉唱が禁止されましたが、女子シングルスで彗星のように現れた、ロシアの19歳、ミラ・アンドレーエワが優勝しました。
ミラさんは、ウクライナ選手との試合では、握手を避けられましたが、決勝相手のポーランドのマヤ・フワリンスカ選手は、「ミラは若いし、才能があり、イライラするわ(笑)」と褒めたたえ、微笑ましい抱擁の場面がありました。ロシアとポーランドは、ナチスに攻められ迫害され、多くを失ったという、歴史的共感があるのかもしれません。下は、愛犬と共に優勝を喜ぶミラさんです。
サッカーワールドカップで、イランは、試合が行われる米国からメキシコに滞在先変更を余儀なくされました。15人のスタッフに米国ビザが発行されず、その他の選手たちも、試合が行われる日しか、米国に滞在できない、という不利な条件のビザでした。チケットもイランのサポーターに割り当てられたチケット(8%)が、数日前に取り消されました。既に旅行計画を立てていたファンは、連盟の公式ルートを通じて試合を観戦することができなくなったそうです。
それでも、イランの選手たちは、笑顔でメキシコに到着しインタビューにこたえていました。それぞれの胸には、イランのミナブ Minabで米イスラエルの先制攻撃で、命を失った168人の子どもたちを悼む、#168 のピンが光っていました。
冒頭の写真は、シドニーで見かけた、先住民アートの壁画です。

今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホストファミリーとグレートオーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。