政治を斬る!

新聞記者やめます。あと25日!【「どちらも経済界の味方」という歪んだ二大政党制〜バイデン民主党の歴史的転換に日本の野党も続け!】

米民主党のバイデン大統領が「大きな政府」へ舵を切る姿勢を鮮明にしている。4月28日の施政方針演説で「この国をつくったのはウォール街(金融界)ではなく中間層だ」と明言し、富裕層への増税を財源に低中所得層への大胆な支援策を断行して貧富の格差を是正する方針を打ち出した。

バイデン氏が意識するのは、世界恐慌と第二次世界大戦の危機を追い風に大胆な増税による「富の再分配」を推進した民主党のルーズベルト大統領である。ルーズベルトが推し進めた「大きな政府」は1970年代の石油危機で行き詰まり、80年代のレーガン共和党政権以降は市場原理とグローバル化を重視する「小さな政府」が主流となった。バイデンは40年ぶりに経済政策の軸を元に戻そうというのである。

バイデンの演説のなかでとくに印象的だったのは「トリクルダウンは機能しなかった」と宣言した部分である。市場原理の勝者にもたらされる富は低所得者にしたたり落ちていくという「トリクルダウン」はレーガン政権以降の「小さな政府」の理論的支柱だった。バイデンはそれを全否定したのだ。

ここで見逃せないのは、米国はレーガン(共和党)以降、ブッシュ父(共和党)、クリントン(民主党)、ブッシュ子(共和党)、オバマ(民主党)、トランプ(共和党)と二大政党による政権交代を繰り返してきたのだが、民主党のクリントン、オバマ両政権も共和党政権同様、市場原理とグローバル化を重視して格差是正を後回しにする「小さな政府」路線を推進したことである。バイデン大統領の姿勢方針演説演説の言葉を借りれば「ウォール街」を重視する経済政策を続けてきたのだ。

伝統的・保守的な価値観を重視する共和党に対し、民主党は人権や民主主義を重視する。クリントンもオバマも共和党に対しイデオロギー的な「左右対決」を繰り広げたものの、「富裕層vs低中所得層」という経済政策の「上下対決」の対立軸は必ずしも明確ではなかったのだった。

私がクリントンやオバマの「小さな政府」の側面に気づいたのは、教育研究者の鈴木大裕さんがニューヨークのスラム街の公立学校に娘二人を通わせた経験をもとに執筆した崩壊するアメリカの公教育――日本への警告を読んだ時だ。リベラルなイメージの強かったオバマ政権下で「教育の市場化」が急速に進められ「教育格差」が拡大したという事実に衝撃を受けたのだった。

二大政党がともに「小さな政府」を志向したことで、もっとも得をしてきたのは、ウォール街に代表される経済界である。どちらが政権を担っても富裕層への大胆な増税などを通じて急進的な「富の再分配」が断行される心配がなかったからだ。経済界は共和党、民主党双方に政治献金し、どちらが大統領選に勝っても「小さな政府」路線が転換されないように「保険」をかけてきたのだ。

この結果、もっとも損をしたのは、低中所得層の労働者である。「小さな政府」のもとで富裕層はますます豊かになる一方、低中所得層は置いてけぼりにされ、格差はどんどん拡大した。共和党と民主党の二大政党がともに「小さな政府」を競い合うなかで、労働者の声を代弁する政治勢力がワシントンから消えてしまったのだ。

そういう意味で、二大政党制は、政治献金を使って政治をコントロールする経済界にとって実に都合のよい制度であるといえる。二大政党が似通った政策を掲げた場合、多党制ならば第三極が台頭する可能性があるが、二大政党制ではその可能性が極めて低い。経済界は二大政党さえ手中に収めておけば、どちらに転んでも安泰なのだ。

この構図は、英国も同じである。80年代の保守党サッチャー政権で「小さな政府」が主流になった後、労働党はブレアが掲げた「第三の道」で同じく「小さな政府」に軸足を置いたのだった。それは経済界に配慮したものだった。経済界は保守党、労働党のどちらが勝っても安泰という政治状況を手にする一方、低中所得層の労働者は二大政党の双方から見放され、置き去りにされたのだった。

英米の二大政党制はどちらが政権をとっても経済界を潤わせ貧富の格差を拡げるという構造に私が気づいたのは、英国の気鋭のジャーナリストであるオーウェン・ジョーンズが2014年に刊行した『エスタブリッシュメント 彼らはこうして富と権力を独占する』(邦訳の出版は2018年)を読んだことがきっかけだった。

さらにそこで気づいたのは、ブレアの労働党をお手本として二大政党の一翼を担う政党を目指してきた日本の民主党も、同じような道筋を歩んできたということである。2009年に政権を獲得した後、結局は労働者ら低中所得層よりも、エリート官僚や経済界ら「エスタブリッシュメント」の側に立ってしまった。それを象徴する出来事が、低所得者層に重くのしかかる「消費増税」を総選挙のマニフェストに掲げていなかったのに突如として打ち上げ、2010年の参院選に惨敗したことだった。

どちらも富裕層を代弁する二大政党制の矛盾を突いて台頭したのがトランプである。トランプが切り捨てた「ワシントンの政治」は「二大政党政治」と言い換えてもよいだろう。共和党も民主党もウォール街に代表される富裕層の味方であり、自分たちは切り捨てられたという低中所得層の不満を吸い上げ、一挙に大統領の座をつかんだのだった。

こうして政治史を俯瞰してみると、バイデン大統領の姿勢方針演説は、40年前のレーガン政権から脈々と続いてきた「小さな政府」を大転換させる歴史的局面であることに気づく。この大転換を推し進めたのがコロナ危機であることは間違いない。はたしてバイデン政権がこの大転換を成し遂げることができるか、これからの動向を注視したい。

この大転換の波は日本にも押し寄せるだろう。野党第一党・立憲民主党は正念場だ。富裕層への増税を大胆に掲げ、低中所得層に富を再分配して貧富の格差を是正する政党に生まれ変われるか。もたつくようなら、そう遠くないうちに「低中所得層の味方」を標榜する第三極の新興勢力が台頭するに違いない。それが世界の潮流である。

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