政治を斬る!

新聞記者やめます。あと33日!【「野党全勝」で浮かれる事なかれ。肝心の投票率が上がってません!】

菅政権初の国政選挙は野党全勝に終わり、野党は今秋までに行われる解散総選挙にむけて勢いづいている。

一議席をめぐって与野党が激突する小選挙区制において、野党が候補者を一本化したことを勝因とする分析が多い。これ自体は間違いではない。だが、より正確にいうと「候補者の一本化」は野党勝利のための必要条件であって、十分条件ではない。

今回の選挙で気になるのは非常に低い投票率だった。衆院北海道2区補選は30.46%、参院長野選挙区補選は44.40%、参院広島選挙区再選挙は33.61%。私は「野党全勝」よりも「低投票率」が最大のニュースであったと思っている。

3つの選挙はいずれも野党優位が予想された。北海道と広島は「政治とカネ」のスキャンダルで与党現職が国会を去ったことに伴う選挙だったし、長野は野党現職がコロナで急逝したことに伴う選挙。いずれも野党優位の特殊事情を抱える選挙だった。とりわけ北海道と広島の投票率が3割そこそこにとどまったのは、与党支持者が投票所に足を運ばないことで「政治とカネ」への抗議の意思を示したといえるだろう。その意味で今回は「野党の不戦勝」といえるかもしれない。

日本社会は「右3割・左2割・無関心5割」で、無関心が棄権して投票率が5割にとどまれば与党が野党に「3対2」で勝ち続けるーー私はそうした選挙分析を『新聞記者やめます。あと56日!』で示した。実際、安倍政権の国政選挙6連勝はいずれも投票率が50%そこそこだった。与野党は得票数では「3対2」で競り合っても、一人しか当選しない小選挙区で与党が地滑り的に勝利し、圧倒的な議席を獲得するという選挙を6回も繰り返してきたのだった。

野党がバラバラでは小選挙区制では勝てない。候補者一本化は勝利のための「必要条件」である。ただし、一本化するだけでは「左2割」を固めるだけで、「右3割」を固める与党にはいつまでたっても勝てない。「無関心の5割」に食い込んで投票所へ足を運んでもらい、投票率を大幅に引き上げない限り、政権交代は起きないのだ。

実際、2009年総選挙で民主党への政権交代が実現した時は、投票率が7割近くに跳ね上がった。ざっくりいうと、民主党政権への期待感から「無関心5」のうち「2」が投票所へ向かって野党に一票を投じ、結果として「3対4(左2+無2)」で野党が逆転したのである。

繰り返すが、今回の3つの選挙は「与党の不戦敗」である。本番の総選挙で投票率が3割にとどまる可能性はない。「右3割」はさすがに総選挙には投票に行くからだ。野党は今回の「3戦全勝」に浮かれていては、安倍政権下の6連敗と同じ轍を踏むだろう。投票率が5割そこそこに伸び悩み、「3対2」で敗れるのだ。それは「善戦」でも「惜敗」でもない。負けるべくして負けるということだ。

では、投票率を2009年同様、50%から70%へ、20%引き上げるにはどうしたらよいのか。野党第一党の立憲民主党は「大きな塊」をつくることで政権交代への期待を高めて無関心層にリーチするという戦略を進めてきた。これは2009年と同じである。当時は菅直人氏が率いる民主党と小沢一郎氏が率いる自由党が合流して「大きな塊」をつくることで政権交代の機運を高めることに成功したのだった。

しかし民主党政権はその菅氏と小沢氏の内部闘争で瓦解し、たった3年あまりで終焉した。国民の失望感はあまりに大きく、その後の安倍政権は「民主党の悪夢」と叫ぶだけで国政選挙6連勝を果たしたようなものだった。そうした世論に目をつぶり、単に「大きな塊」をつくるだけでは、野党への期待感は高まらず、投票率は伸び悩み、結局は「3対2」で敗れると私は思う。現に今の野党はその道をたどっているようにしか見えない。

なぜ投票率があがらないのか。私は「与党か野党か」の二者択一に根本的な原因があると思っている。「自民党は腐敗してダメだが、立憲民主党も嫌だ」という人々の票の行き場がないのだ。誰もが自由に発信して個性豊かな情報が氾濫するデジタル時代が到来し、人々の興味関心や感性がますます多様化するなかで、選挙だけが「二者択一」というのは時代遅れの気がしてならない。

「そうはいっても小選挙区制である以上、二者択一にするしかないですよ」と多くの野党政治家から言われてきた。私もかつてはそう思っていた。選挙制度はすぐには変えられないという現実は百も承知だ。そのうえで、あえて問題提起したい。

選挙制度にあわせて有権者に「商品(=投票先)」を提示するのは、生産者の論理でしかない。「苦労して候補者を一本化したのだから、与党か野党か消去法でどちらから選べ」というだけでは、投票率はいつまでも5割そこそこでとどまるだろう。ここは「消費者目線」が不可欠だ。興味関心が多様になった有権者の立場に立って、個性豊かな数多くの「商品(=投票先)」を提示し、その中から自由に選べるように工夫を凝らしながら、二者択一の小選挙区制で勝つ方策を探るのが「政治のプロ」ではないか。

その難解な鍵を解くキーワードは、私は「多党制」であると思っている。小選挙区と比例代表を組み合わせた現在の選挙制度を逆利用するのだ。

有権者は、自らが当事者意識を持てるテーマ、自らの暮らしに切実にかかわるテーマ、自らのこだわりのテーマのためなら、風雨のなかでも投票所に足を運ぶだろう。消去法で選ぶ「二者択一」では何がなんでも投票に行くという意欲がわいてこないのだ。そこで野党陣営をテーマを絞り込んだ「年金党」「介護党」「子育て党」「非正規労働党」「シングルマザー党」「夫婦別姓党」「緑の党」「疑惑追及党」……というように分割するのである。そのなかに「沖縄」や「福島」の地域政党があってもいい。共産党や社民党も当然含まれよう。そして、それぞれの政党がそれぞれの現場(社会福祉、非正規労働、環境活動…)で地道に活動してきた「当事者」を候補者として擁立するのである。官僚出身や政治家二世などジェネラリストのエリート候補者やいかにも人気取りの芸能人候補者はもういらない。

そして、それらの多数党が「貧富の格差是正」「マイノリティーの尊重」「透明な政治」といった大原則のもとに「野党連合」として政策協定を結び、総選挙では共通公約を掲げる。小選挙区では候補者を一本化し、比例代表では「無関心5割」の掘り起こしを競い合う。それが投票率を引き上げるいちばん効果的な選挙戦略ではないか。

そのうえで忘れてはならないのは、「野党共通の首相候補」を総選挙に擁立することである。この「首相候補」を決めておかないと、仮に選挙で過半数を制しても空中分解してしまう恐れがあるし、何より有権者にとって政権交代のイメージがわかない。そして総選挙に擁立する「首相候補」は政党の党首ではないほうがよい。現在の国会議員でないほうがなおよい。「野党連合」としてまったく新しい人物を担ぐのである。そのほうが野党連合はまとまりやすいし、有権者にも新鮮だ。

今から総選挙までに立憲民主党を多数党に分割するのは時間の制約上、現実的ではない。それは次回以降の課題としてほしいが、今からでも小選挙区の候補者を比例重複をとりやめ、その代わりに「社会福祉など様々な現場で地道に活動してきた当事者」を比例代表の名簿にずらりと並べることは可能だ。

後段の「首相候補」は今回の総選挙からでも十分に間に合う。野党第一党・立憲民主党の枝野幸男代表は自ら「首相候補」として立つ覚悟だろうが、はたしてそれで投票率が上がるだろうか。

サプライズとして清新な人物を「野党共通の首相候補」として総選挙に担ぎ、枝野氏は立憲民主党代表のまま「副総理兼官房長官」候補として野党連合のまとめ役に徹する。そのほうが、世論に新鮮なインパクトを与えて投票率を引き上げ、政権交代のリアリズムを高めることにつながるだろう。それは枝野氏自身の政治基盤を格段に強めることにもなると思う。「野党共通の首相候補」は、例えば、前川喜平氏はどうか。とにかく投票率を上げることである。枝野氏の英断に期待したい。

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