国会終盤戦の焦点は、重要法案をどう成立させるかに移りつつある。
高市政権はここまで、予算案をはじめ様々な案件で野党の一部を取り込みながら政権運営を進めてきた。参議院では与党が過半数に届かないためだ。ところが、ここで一つの疑問が浮かぶ。
なぜ高市政権は野党との修正協議を続けるのか。
衆議院では自民党が圧勝し、日本維新の会との連立与党で3分の2を大きく超える議席を持っている。憲法59条に基づけば、参議院で否決された法案でも衆議院で3分の2以上の賛成があれば再可決できる。理屈の上では、野党の協力がなくても法案成立は可能だ。
それでも与党が再可決を乱発しないのはなぜか。
その答えは、法案の中身ではなく、政局そのものにある。
政局とは結局のところ「多数派工作」である。国会はもちろん、政党内、さらには政権内部でも、誰が多数派を形成するかをめぐる争いが続いている。現在の永田町では、高市官邸と麻生太郎氏が影響力を持つ自民党本部との主導権争いが続いており、それが国会運営にも色濃く反映されている。
その構図を理解する上で象徴的なのが、皇室典範改正問題だ。
衆参両院の正副議長がまとめた案では、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持することや、旧皇族の男系男子を養子として皇族復帰させることなどが盛り込まれている。賛成する政党は自民、維新、国民民主、中道改革連合、公明、参政など幅広い。
しかし、この問題は単純な多数決になじまない。
天皇は憲法第1条で「日本国民統合の象徴」とされ、その地位は「日本国民の総意に基く」と定められている。だからこそ、単に衆議院の3分の2で押し切ればよいという話にはならない。与党が再可決という強硬手段を使えば、かえって制度の正統性を損なう恐れがある。
つまり、法案によっては「勝てるから勝つ」というわけにはいかないのだ。
一方で、より露骨に政局が表れているのが日本国旗損壊罪の創設である。
この法案は、高市首相と維新の吉村洋文代表が3月の党首会談で合意した「維新3法案」の一つだ。ところが、国民民主党の玉木雄一郎代表は当初、「賛成しかねる」と慎重姿勢を示した。
その後、自民党との修正協議に応じる方針へ転じた。
ここには国民民主党の計算が透けて見える。
現在、自民党内では麻生氏の影響力が再び強まりつつあり、国民民主党の連立入り観測も再燃している。国民民主党としては、自民党との協力関係を維持したい。しかし一方で、自民・維新だけで再可決される状況が続けば、自党の存在感は失われる。
だからこそ修正協議に参加し、「自分たちも法案成立に関与した」という実績を残したいのである。
再審制度見直しをめぐる刑事訴訟法改正でも同じ構図が見える。
自民党内の事前審査では激しい対立が起きたが、最終的には与野党協議で微修正が行われた。さらに国民民主党との協議が続く中、参政党が賛成を表明したことで法案成立への道筋が見えてきた。
ここでも各党は政策だけで動いているわけではない。
参政党は昨年の参院選で「日本人ファースト」を掲げて支持を伸ばした。今後は高市政権との距離感が問われる立場にある。何でも反対する野党にはなりたくないが、自民党への無条件賛成にも見られたくない。その微妙な立ち位置が賛成判断の背景にある。
そして今後最大の焦点となるのが衆議院定数削減問題だ。
吉村代表は「再可決はあり得る」と明言している。維新が長年掲げてきた定数削減は、自民党との連携を強化する格好のテーマである。
だが、維新の狙いはそれだけではない。
その先には大阪の副首都構想がある。自民党との連携を深め、政権中枢への影響力を拡大したいという思惑が透けて見える。
さらに維新にとって重要なのは、国民民主党を政権構想から排除することだ。定数削減のようなテーマで衆院再可決に踏み切れば、国民民主党は蚊帳の外に置かれる。つまり再可決そのものが、政党間の勢力争いの武器になるのである。
現在の政局を一言で表すなら、「党高政低」だろう。
表向きは高市政権が国会を動かしているように見える。しかし実際には、自民党内の主導権争いが国会運営を左右している。
高市首相は維新との連携を軸に政権基盤を固めたい。これに対し、麻生氏は国民民主党との関係強化を模索している。その結果、維新と国民民主党もまた激しいライバル関係に入った。
だからこそ、単純に「3分の2があるのだから再可決すればいい」という話にはならない。
再可決するかどうかは、法案の成否だけではなく、誰が次の多数派を握るのかという権力闘争そのものだからだ。
今後、定数削減や副首都構想をめぐって国民民主党が修正協議に応じるのか。それとも高市・維新ラインが3分の2再可決という強硬策に踏み切るのか。
その選択こそが、次の政界再編の方向を決める試金石になる。永田町の本当のドラマは、法案審議の裏側で進む多数派工作の攻防なのである。