自民党政局が、大きく動き始めた。
その象徴が、麻生太郎副総裁が「高市首相を支持する」という旗印で発足した300人規模の議員連盟「国力研究会」である。単なる政策勉強会ではない。ここで起きているのは「麻生氏を中心とした挙党体制」の確立だ。
高市首相は、これまで積極財政、減税志向、維新との連携を武器に「高市カラー」を打ち出してきた。しかし最近、その色合いが急速に薄まり始めている。
しかも、その変化は偶然ではない。国会終盤の補正予算編成をめぐる攻防を通じて、麻生主導の新体制が着々と形成されつつあるのだ。
その鍵を握るのが、①麻生氏に近い国民民主党の連立入り論、②高市首相が主導してきたガソリン補助金の見直し論、③国会対策をめぐる高市・梶山ラインの修復――この三つである。
まず注目すべきは、麻生氏の義弟である鈴木俊一幹事長による「国民民主党連立入り」発言だ。
鈴木氏は5月18日の記者会見で、「国民民主党にも連立に加わってもらうことが大切ではないか」と踏み込んだ。さらに、「維新を含めた三党連立が政治の安定につながる」とも語っている。
しかし、数字だけ見れば、国民民主を無理に連立へ取り込む必要は薄い。
衆院では自民党が316議席を持ち、与党全体で352議席。すでに圧倒的多数である。参院でも、自民・維新の与党に保守・チームみらい・無所属などを合わせて当初予算案を可決・成立させたばかりだ。
それでも国民民主との連立拡大論が出るのはなぜか。
理由は単純だ。高市首相と連携してきた維新の影響力を削ぎ、麻生主導体制を安定化させるためである。
これまで高市首相は、維新との連携をテコに麻生氏に対抗し、党内での発言力を確保してきた。定数削減や副首都構想など、維新と共有できるテーマを掲げ、「麻生一強」への対抗軸を築こうとしていた。
だが、ここへきて高市氏と麻生氏は和解へ向かう。
その背景には、今年に入ってから続いた激しい対立がある。昨年末には「年収の壁」見直しで高市政権と国民民主が接近した。しかし今年1月の電撃解散を機に、高市氏と麻生・国民民主ラインは亀裂を深める。さらに3月、高市政権が国民民主の予算提案を拒否したことで対立は決定的となった。
ところが5月、麻生議連発足を機に空気は一変する。
鈴木幹事長に加え、参院自民党を率いる松山政司参院議員会長、石井準一参院幹事長からも、相次いで「連立拡大論」が飛び出した。これは単なる政策論ではない。高市政権を「麻生管理下」に置くための政局戦略である。
その中で、国民民主党の玉木雄一郎代表は慎重姿勢を崩していない。「連立入りは議論していない」としつつ、「政策本位で協力する」と余地を残している。
しかも最近は、これまで強く主張してきた消費税減税論をトーンダウンさせている。代わりに打ち出したのは、中低所得層向け5万円給付を柱とする補正予算要求だ。
消費税減税を主張を下ろしたのは、減税に反対する麻生氏への配慮であり、連立入りへの布石であろう。
次の焦点が、萩生田光一氏によるガソリン補助金見直し論だ。
ガソリン補助金は現在、月3000億円規模の巨額財政出動となっている。中東情勢の緊迫化で原油高が続けば、財源はさらに膨張する。しかも、市場の歪みやナフサ不足も指摘され、制度疲労は明らかだ。
高市政権は当初、補正予算編成にも慎重だった。しかしここへきて、軌道修正が始まった。
その橋渡し役となっているのが萩生田氏である。
4月に麻生・鈴木・萩生田の党中枢と高市首相の「焼き魚ランチ」。5月には梶山弘志国対委員長も加わった「ステーキランチ」が首相官邸で開かれた。永田町では、これらを「麻生・高市和解ライン」と見る向きが強い。
萩生田氏は経産相経験者であり、経産省との調整力も高い。さらに、麻生と高市双方にパイプを持つ数少ない存在だ。
その結果、高市政権は「積極財政一本槍」から後退し始める。ガソリン補助金見直しは、その象徴である。
そして、この補正予算をめぐる攻防の裏側には、もう一つ重大な問題が横たわっている。
高市陣営をめぐるSNS工作疑惑だ。
週刊文春は、高市陣営関係者が総裁選や衆院選で他候補を中傷する動画を拡散していたと報じた。動画作成者の松井氏は、秘書とのやり取りを暴露した。一方、高市首相は国会で全面否定し、「秘書を信じる」と反論した。
問題は、参院での国会運営である。
衆院では自民党が三分の二を持つため押し切れる。しかし参院は不安定だ。もし参院自民党が造反すれば、秘書の参考人招致や証人喚問が現実味を帯びる。
高市首相が麻生と和解し、梶山国対委員長との関係修復を急ぐ背景には、この「参院リスク」がある。
つまり、高市政権はいま、「政策」と「スキャンダル」の両面から麻生体制への依存を深めているのである。
補正予算が成立すれば、その流れは決定的になるだろう。
国民民主が補正予算に協力すれば、連立入り論は一気に現実味を帯びる。ガソリン補助金の見直しで高市色は後退し、積極財政・減税路線も修正される。さらに、旧姓使用拡大法案や維新との連立合意も棚上げされる可能性が高い。
その先に見えるのは、「高市政権」というより、「麻生管理内閣」である。
表向きは高市首相でも、実際の主導権は麻生太郎が握る――。
300人議連「国力研究会」は、その新しい権力構造を示す巨大なシグナルなのかもしれない。