「国会はもう変えられない。地方から変えるしかない」
この一言は、既成政党への絶望が広がる今の時代を象徴している。
実業家のひろゆき氏と元明石市長で参院議員の泉房穂氏が、新たな政治団体「ひろゆき&いずみ新党」(仮称)を設立した。来春の統一地方選で東京都の11区長選を中心に候補者を擁立し、市長や区長を全国に誕生させるという。国政ではなく地方から日本を変える――。その構想は、従来の新党とは一線を画している。
高市早苗内閣の支持率は急落している。物価高対策への失望や政治への閉塞感は強まる一方だ。しかし、自民党が失速しても野党各党の支持率は伸びない。「政権交代」という言葉には現実味がなく、政治の受け皿は見当たらない。
その空白に飛び込んできたのが、この新党である。
もっとも、その船出は華々しいものとは言えなかった。
最初に強烈な批判を浴びせたのは野党でも自民党でもない。ひろゆき氏の妻、西村ゆか氏だった。
「政治団体を作るとは何も聞いていなかった」「騙し討ちにあった気分」
SNSには怒りの投稿が並び、ひろゆき氏も泉氏も十分な説明をしていないことを明かした。さらに「少子化を語る前に家族と向き合え」と厳しく批判したのである。
少子化対策を旗印に掲げる新党だけに、この皮肉は極めて痛い。
もっとも、この騒動は裏返せば注目度の高さでもある。
新党最大の武器は、圧倒的な知名度だ。
ひろゆき氏はSNS、YouTube、ABEMAなどを通じて若い世代への発信力を持つ。一方、泉氏は明石市長として子ども政策を実現し、人口増加という実績を残した。さらに参院選では無所属トップ当選を果たし、選挙の強さも証明している。
発信力と行政経験。この二枚看板は既存政党にはない組み合わせだ。
しかし、政治は人気投票ではない。
地方選挙、とりわけ首長選挙は「小選挙区」である。最後は「この人なら任せられる」という信頼感と地域組織が勝敗を左右する。
ここで浮かび上がるのが東京都である。
来春の統一地方選では東京都内11区で区長選が予定されている。中央、文京、台東、墨田、大田、世田谷、渋谷、豊島、北、板橋、江戸川だ。
ここは単なる区長選ではない。
小池百合子知事の勢力圏と、自民党系区長の地盤が入り交じる政治決戦の舞台なのである。
豊島区は小池チルドレンの高際みゆき区長が守る牙城。北区や渋谷区も小池都政との結び付きが深い。一方、台東区、板橋区、中央区は保守・自民系が強固な基盤を持つ。世田谷区は保坂展人区長が率いるリベラル勢力の拠点だ。
ひろゆき新党が東京で候補者を擁立するなら、これは単なる地方選ではなく、小池都政への挑戦状となる。
さらに視線をその先へ向けると、2028年には東京都知事選が控える。
ひろゆき氏自身は出馬に否定的だが、政治は一寸先が闇である。もし東京で一定の勢力を築けば、知事選への挑戦論が浮上しても不思議ではない。
泉氏もまた、国政より首長選に強みを持つ政治家である。
地方から勢力を広げ、都知事選、さらに国政へ――。
そんなシナリオを描いているとしても驚きはない。
とはいえ、前途は平坦ではない。
石丸伸二氏の新党も当初は大きな期待を集めながら勢いを失った。知名度だけでは組織は育たず、地方選挙では地域に根を張った既存勢力の壁が厚い。
しかも、小池都政は都民ファースト、自民党、公明党、さらには連合東京との協力関係を背景に極めて安定している。
この巨大な壁を崩すのは容易ではない。
さらに泉氏は、自民党とも維新とも、公明党とも距離がある。国民民主党との関係も以前ほど良好ではない。既成政党への不満を取り込める一方で、味方を作りにくいという弱点も抱えている。
それでも、この新党には一つだけ大きな可能性がある。
それは「政界再編の起爆剤」になることだ。
必ずしも自ら政権を取る必要はない。既存政党に不満を抱える有権者や地方政治家の受け皿となり、新たな政治勢力を生み出す呼び水になる可能性はある。
高市内閣の失速で、自民党一強にも陰りが見え始めた。しかし野党も期待に応えられていない。
その政治的空白に、新党はどこまで食い込めるのか。
来春の統一地方選は、その答えを示す最初の舞台になる。
そして、その先に見えてくるのは東京都知事選なのか、それとも日本全体を巻き込む政界再編なのか。
「ひろゆき&いずみ新党」は、まだ二人しかいない。
しかし、日本政治が新たな時代へ動き始める号砲となるのか、それとも一過性の話題で終わるのか。
その真価は、これから始まる地方の戦いで試されることになる。