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自公立国が相乗り・神戸市長の支援も受けた現職を、泉房穂・前明石市長の支援を受けた無名の新人が倒した兵庫県三田市長選の衝撃

兵庫県三田市の市長選(7月23日投開票)で、子ども政策で全国の脚光を集める泉房穂・前明石市長が全面支援した元銀行員の新人・田村克也氏(57)が、自民・立憲・公明・国民の推薦を受けて3選を目指した現職の森哲男氏(71)を1013票差で破り、初当選した。

田村氏は当初、全くの無名だったが、泉氏と並ぶポスターを掲げると通勤客らが次々とチラシを取ったと神戸新聞は報じている。泉氏は選挙戦中に2日間、三田市に入り、「明石でできたことは三田でもできる。主人公は市民だ」と訴えた。

田村氏は政党や団体の支援を受けなかった。市民が選挙を手伝いに自然に集まり、チラシ1万5千枚を3日間で配ったという。

市長選には共産推薦の新人も出馬するなか、田村氏が自民・公明・立憲・国民の与野党相乗りの現職に競り勝ったことは、まさに「脱政党」による「市民の勝利」といっていい。明石市で政党や団体の推薦を受けずに圧勝してきた泉流の選挙が三田市でも実現した。

最大の争点になったのは、三田市民病院を隣の神戸市にある済生会兵庫病院と再編統合する問題だった。現職の森氏は神戸市の久元喜造市長とともに再編統合を推進し、選挙戦でも久元市長の支援を受けた。

これに対し、田村氏は病院の再編統合に反対する市民団体の公募に応じて出馬し、再編統合の白紙撤回を掲げた。ここに泉氏が全面支援に加わり、三田市長選は「神戸市長と前明石市長の代理戦争」とも評された。

与野党相乗りで神戸市長の支援も受ける現職を、無名の新人が倒したーーこのインパクトは大きい。「明石から日本を変える」を掲げる泉氏の政治改革の勢いを改めて感じさせる市長選だった。

泉旋風が続く兵庫県では、2025年に知事選、神戸市長選がある。同年には参院選もあり、さらに泉氏は2025年は衆参ダブル選挙になる可能性が高いとみて、「2025年決戦」にむけて各地の自治体へ勢力拡大を進め、一大決戦に備える準備を進めているようだ。

大阪発の維新旋風とは政治理念を異にする兵庫発の泉旋風の行方は、リベラル派の新たな挑戦モデルとして注目していい。

それにしても情けないのは、立憲民主党である。なぜ泉房穂氏と組んで市長選を勝ちに行かなかったのか。自公与党と組んで敗北したのは、みっともないとしかいいようがない。

立憲は民主党時代から知事選や市長選で自公候補を倒しながら、当選した首長が自公与党と融和し、二期目以降は与野党相乗りになるというパターンを各地で繰り返してきた(典型例は横浜市である)。全国どこにも「民主党の地域政権」は根を張らなかったのである。

大阪発の維新が大阪で自民党と激突しつづけ、自民党をなぎ倒して府知事、府議会、市長、市議会を制したのと対照的である。維新が躍進する一方、立憲が凋落し、野党第一党の座を奪われつつあるのは、「野党第一党でありながら、各地で自公与党と手を結び、地域に定着しなかった」ことが最大の要因であろう。

立憲がなぜ与党と相乗りすることになるのかというと、答えは簡単だ。立憲は連合なくして選挙戦を戦えず、その連合が各地で現職にべったりで自公との激突を避けるからである。立憲は連合に引きずられるかたちで自公とともに現職に相乗りし、共産をのぞくオール与党体制を各地でつくって、有権者を白けさせてきたのだった。

これはその時々のリーダーの判断の誤りというよりも、「市民よりも労組」に支えられている政党としての構造的限界である。短期間に修正できるものではない。立憲の野党第一党からの転落はもはや時間の問題だ。

立憲とは正反対に、与野党相乗りの選挙戦に第三極の立場から割って入ってきたのが維新だった。さらに、維新とはまったく異なるリベラルの立場から与野党相乗りに切り込んでいるのが、前明石市長の泉房穂氏である。

これら「自公立の相乗り政治」に挑戦する勢力が政治理念を超え、「古い政治の打破」を掲げて手を結び、これに対抗して、自公立3党が国政レベルでも「維新包囲網」「反ポピュリズム」を大義名分に接近する方向へ日本政界は紆余曲折を経ながらも進むと私はみている。

立憲にとって泉房穂氏は「手を握る仲間」というよりは「自分たちを脅かすライバル」になりつつある。その潜在的な警戒感が、立憲が泉氏との共闘へ動かない最大の要因であろう(ここでいう「立憲」とは、求心力を失っている泉健太代表ではなく、政党運営の主導権を握っている野田佳彦元首相や枝野幸男前代表、安住淳国対委員長らのことである)。

永田町に与野党の談合政治がまかりとおり、閉塞感が漂う中で、左右のイデオロギー対決とは次元の異なる新たな「中央集権vs地域主権」の対決構図が出現しつつあるといえるかもしれない。私はここに新しい政治・政界再編の萌芽を感じている。

さて、そうなった場合、どちらを応援するのか。一筋縄では答えが出ない究極の選択になるかもしれないが、私たち有権者も頭の体操をしておく必要があるだろう。

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