政局の潮目が変わりつつある。
その変化を映し出したのが、木原稔官房長官の発言だ。
高市早苗政権の中枢を担う木原氏が、週刊新潮でジャーナリストの櫻井よしこ氏との対談に応じ、憲法改正をめぐって踏み込んだ見解を示した。注目されたのは、「まず9条改正ではなく、参院の合区解消から進めるべきだ」という提言である。
一見すると改憲論議に見える。しかし政局の文脈で読むと、その意味ははるかに大きい。
そこには、高市政権の今後、さらには自民党の連立戦略を占う重要なメッセージが隠されている可能性がある。
現在の政局の軸は、高市首相と麻生太郎氏の主導権争いだ。
麻生氏は自民党議員の8割以上が参加する「国力研究会」を立ち上げ、党内に巨大な求心力を形成した。さらに、自らに近いとされる国民民主党を連立与党に迎え入れる構想も取り沙汰されている。
一方、高市首相はこれまで吉村洋文氏率いる日本維新の会との連携を強めることで、麻生氏の影響力に対抗してきた。
しかし最近は状況が変わった。
高市政権を直撃したネガティブキャンペーン疑惑なども重なり、政権運営は守勢に回りつつある。麻生氏との全面対決路線は後退し、むしろ和解へと舵を切った。その結果、秋の党役員・内閣人事や来年の総裁選を見据えると、政局の主導権は麻生氏側に傾きつつあるようにも見える。
そこで注目されるのが木原官房長官の立ち位置である。
木原氏は高市首相が抜擢した政権の要だ。保守派のエースとして防衛相を務め、現在は官房長官として政権運営を支えている。高市政権にとって数少ない側近議員の一人といってよい。
しかし、もう一つの顔も持つ。
木原氏は旧平成研究会、いわゆる旧茂木派の出身であり、茂木敏充外相とも近い関係にある。そして茂木氏は麻生氏と連携を深めている。さらに木原氏自身、麻生氏が旗揚げした国力研究会では事務総長を務めている。
つまり木原氏は、高市陣営と麻生陣営の双方に足場を持つ数少ない政治家なのだ。
だからこそ、今回の改憲発言が注目されるのである。
高市首相は来年春までの改憲発議を目標に掲げている。その中核テーマと見られてきたのは9条問題だった。
ところが木原氏は、櫻井氏から9条改正への期待を向けられても、「まずは合区解消から始めるべきだ」と応じた。
木原氏の論理は現実的だ。
いきなり9条改正を目指しても与野党合意は難しい。まず比較的合意形成しやすい合区解消を実現し、憲法改正そのものへの国民理解を広げたうえで、自衛隊明記や緊急事態条項へ進むべきだという二段階論である。
だが、この考え方は誰の主張に近いのか。
実は国民民主党の玉木雄一郎代表とほぼ重なっている。
玉木氏も以前から「9条改正は自民と維新の間ですらまとまっていない」と指摘し、「まず合区解消のような合意可能なテーマから始めるべきだ」と主張してきた。
逆に、日本維新の会は9条2項削除を強く訴えている。
つまり今回の木原発言は、改憲論で見れば「維新より国民民主に近い立場」を鮮明にしたことになる。
ここに政局的な意味がある。
現在、自民党内では国民民主党との連立拡大論が広がっている。
鈴木幹事長も「国民民主党に連立に加わっていただくことが大切だ」と発言している。高市首相自身も最近、「必要な対応は常に考えている」と述べ、従来より柔軟な姿勢を示している。
さらに玉木氏も「信頼関係が維持されていれば、今ごろ連立協議をしていたかもしれない」と語った。
かつては遠い話に見えた自民・国民民主連立が、現実味を帯び始めているのである。
そう考えると、木原氏の発言は単なる改憲論ではなく、高市官邸が国民民主との連立拡大を受け入れる準備に入ったサインと読むこともできる。
あるいは、木原氏自身が高市首相一本足打法から距離を取り、麻生・茂木ラインとの関係を強めているシグナルなのかもしれない。
もちろん現時点で断定はできない。
しかし一つ確かなのは、今回の発言が単なる憲法論議を超えた政治的意味を持っていることだ。
憲法改正は保守政治家にとって悲願である。同時に、政界再編や連立拡大を進めるための強力な政治カードでもある。
高市首相にとって改憲は安倍政治の継承であり、自らの歴史的実績づくりにつながる。一方、麻生氏にとっては国民民主党を連立に引き込み、安定政権を構築するための大義名分にもなり得る。
維新にとっては野党再編を主導する武器であり、国民民主にとっては連立参加を正当化する旗印でもある。
改憲論議の裏側では、各党がそれぞれ異なる思惑を抱えながら動いている。
そして、その交差点に立っているのが木原官房長官だ。
高市か、麻生か。
木原氏が最終的にどちらへ重心を移すのか。
その選択は、高市政権の命運だけでなく、次の政界再編の方向性をも左右することになりそうだ。