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何のための訪米だったのか〜「安倍外交」で霞んだ外相時代。それでも自画自賛「岸田外交」の本当の実力

内閣支持率が続落している岸田文雄首相が9月21日(現地時間20日)、米国・ニューヨークで開かれた国連総会で演説した。売りは「ウクライナに侵攻したロシアを名指し批判」と「国連改革」だった。

報道によると、岸田首相が32番目に登壇した時点で会場はガラガラだった。ロシア批判は米国のバイデン政権に歩調をあわせる「想定内」のもので、オリジナリティはない。国連改革はロシアの横暴を許した安保理の機能不全を受け、日本の悲願である常任理事国入りを念頭に置いたものだが、常任理事国の構成を変更する機運はまったく高まっていない。

日本の経済力は急速に衰退し、日本の存在感は埋没する一方で、リアリズムを欠く岸田演説は国際社会でほとんど見向きもされなかったようだ。

それでも日本国内向けに「外交の岸田」をアピールし、内閣支持率の回復につなげることができれば、まだよかった。しかし、旧統一教会問題や安倍国葬問題での不人気を吹き飛ばす効果があったのかは甚だ疑問である。

意気込んでニューヨークに馳せ参じた割には実りの少ない外遊だったといえるだろう。

岸田首相は安倍政権で4年7ヶ月も外相を務めた。マスコミは「安倍外交」と持ち上げ、岸田外相の影は極めて薄かったのだが、本人は「外交の岸田」との思い入れが非常に強い。悲願の首相の座をつかみ、首脳外交を華々しく展開することに並々ならぬ意欲を抱いている。(経済政策への関心は薄く、財務省に丸投げ。霞ヶ関で「岸田機関説」と揶揄されているのとは対照的だ)

ところが台風14号に出鼻をくじかれた。台風対応を優先し19日に予定していた米国への出発を遅らせた。

それでも出発前には「今、国際的な秩序が問われている。その中で日本がしっかりと発信できるかどうかも大変重要な課題だ」と強調。「英国のトラス新首相との会談を含め、さまざまなバイ会談、また、CTBT(包括的核実験禁止条約)フレンズ首脳級会合をはじめ、各種マルチの会合にも出席していきたい」と意欲をみなぎらせた。トラス首相とは約1時間会談し、ロシアや中国の脅威にともに対処していくことを確認した。(これも想定の範囲内)

これ以外で目を引いたのは、2年10ヶ月ぶりに実現した日韓首脳会談くらいだった。

韓国は対日強硬姿勢の文在寅大統領から日韓関係改善を志向する尹錫悦大統領に政権交代したが、岸田政権は相変わらず冷淡な姿勢をとっていた。岸田首相は今回の訪米前に韓国側が首脳会談開催を一方的に発表したことに対して不快感を示し、「それなら逆に会わねえぞ」と周辺に漏らしたほどだ。

内閣支持率が下がると対韓強硬姿勢をみせて支持率回復を狙うのは安倍政権の常套手段だった。岸田政権もそうした政治手法を受け継いでいるのだろう。

とはいえ、岸田首相は日韓首脳会談を拒否するほど腹が座っているわけではなく、結局は応じた。報道によると、「日韓は互いに協力すべき重要な隣国であり、アメリカも含め、協力を推進していく重要性について一致した」という。

出席した日本政府関係者は「着席で行い、雰囲気は真剣勝負だった。尹大統領の方が多くしゃべった」としており、岸田首相が主導した首脳会談ではないのは明らかだ。その日韓首脳会談が主要ニュースになるほど見せ場の少ない岸田訪米だった。

5年近くも外相を経験した岸田氏でなくても、外務省のお膳立て通りに振る舞えば、誰が首相でも十分に務まる。むしろ「岸田外交」の底浅さを露見してしまった訪米だった。安倍国葬に主要国のビックネームが駆けつけないのも合点がいく。

岸田首相は来年5月に地元・広島で開催するサミットに強い意欲を示している。このサミットで支持率を回復して衆院解散を断行するシナリオも政権中枢で練られているが、広島サミットでもうだつが上がらず支持率低迷が続けば、逆に「サミット花道論」が浮上してもおかしくはない状況だ。

ちなみに、岸田首相自身は訪米成果に満足しているようで、バイデン大統領との「立ち話」を誇らしげにツイートしている。しかし、バイデン大統領に一方的に肩をつかまれ、抑え込まれているようにしかみえない。米国に見下された追従外交を象徴する映像である。

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