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岸田首相「強制捜査の夜の宴会はしご」で強まる「国策捜査」の疑念〜朝日新聞は検察リークに基づく「自称・特ダネ」よりも「なぜ麻生・茂木・岸田の主流3派は強制捜査しないのか」を追及すべきだ

東京地検特捜部が自民党の安倍派と二階派の裏金事件で強制捜査に入った12月19日の夜、岸田文雄首相が宴会をはしごしたことが波紋を呼んでいる。

まずは母校・開成高校の国会議員や官僚が都心のホテルに集まる会合に出席し、それから広島県選出の国会議員や県議らが集まる中華料理店での宴会に転戦したのだ。

岸田首相は各派閥に政治資金パーティーの開催や年末・年始の派閥行事の自粛を求めている。にもかかわらず自らは宴会をはしごしたことに、自民党内に「どういうつもりか」と反発が広がっている。

そればかりではない。

裏金事件で大学教授から刑事告発されたのは、安倍派や二階派だけではない。現主流派の麻生派、二階派、岸田派も刑事告発された。さらに岸田派は特捜部の捜査対象になっているとも報道されている。

岸田派にも強制捜査が及ぶ恐れがあるのなら、宴会をはしごしている余裕などないはずだ。すでに検察当局との間で「岸田派は強制捜査しない」という裏取引が成立しているのではないかーーそんな疑念が広がるのは当然だ。

そもそも今回の事件は、最大派閥・安倍派と非主流派の二階派を狙い撃ちし、麻生・茂木・岸田の主流3派を後押しする「国策捜査」との見方がある。

岸田首相が裏金事件を機に、安倍派の松野博一官房長官、西村康稔経産相ら閣僚4人と、萩生田光一政調会長、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長の党幹部3人を一斉更迭して安倍派崩壊を後押ししたことから、「国策捜査」の色合いは濃くなった。

さらに岸田首相の余裕ぶりが主流派と検察当局の裏取引への疑念をいっそうかき立てたのである。

安倍晋三元首相が他界した後、安倍派を集団指導体制を主導してきた5人衆(萩生田、西村、世耕、松野、高木5氏)が全員更迭されて失脚したことで、最大派閥・安倍派は分裂含みに陥り、来年の自民党総裁選で草刈り場となる可能性が高まっている。

第二派閥・麻生派、第三派閥。茂木派、第四派閥、岸田派の主流3派が派閥力学では圧倒的に優勢になったといっていい。

内閣支持率の続落で岸田首相には解散総選挙を断行する力はなく、来年秋に予定される自民党総裁選で再選を果たすのは難しそうだ。そこで麻生氏は来年春の予算成立後に岸田首相を退陣させ、緊急の総裁選に茂木敏充幹事長を担いで勝利し、主流3派体制を維持する構想を描いている。

主流3派だけでは過半数に届かず、最大派閥の安倍派を引き込むことが大きな課題だった。これまでも5人衆を要職に起用して政権を安定させてきたが、総裁選対策としても引き続き5人衆を取り込む必要があった。

ところが、裏金事件で5人衆が失脚し、安倍派が壊滅状況に陥ったことで、配慮する必要はなくなった。主流3派の優勢がはっきりしたといえるだろう。

特捜部の捜査が主流3派を後押ししたのは間違いない。

この国策捜査に加担しているのは、朝日新聞などマスコミ各社だ。

朝日新聞は安倍派の裏金事件の検察捜査をめぐって「スクープ」を連発している。もちろんすべて検察当局のリークに基づく報道だ。

リベラル言論界には朝日新聞の一連の報道を拍手喝采する向きがあるが、朝日新聞記者として長年の検察報道を内側から見てきた私としては「また検察権力と一体化した事件報道か」という思いが強くある。

検察報道の本来の役割は、検察捜査の行方をリークに基づいていち早く報じることではなく、検察捜査が公正に行われているかどうかをチェックすることにある。その意味で今回の裏金捜査では「安倍派や二階派への強制捜査」を追いかけるばかりではなく、「刑事告発されている麻生派、茂木派、岸田派はなぜ強制捜査しないのか」という視点で追及しなければならないはずだ。

検察当局は安倍政権時代、森友学園事件や加計学園事件、桜を見る会問題など、安倍官邸の権力私物化スキャンダルの捜査に後ろ向きだった。

私は当時、朝日新聞記者だったが、社会部の検察担当記者たちに「検察の不作為」を追及する決意をまったく感じなかった。彼らは「検察から情報をいち早くもらって、他社を出し抜く」ことにだけ関心があり、検察捜査が公正に行われているかどうかを追及する気概がそもそも欠けているのだ。

今回の裏金事件をめぐる朝日新聞の「スクープ」の背景には、検察当局の読売新聞への当て付けがあると言われている。読売新聞は河井克行元法相の選挙買収事件の検察捜査で「供述誘導」の不正があったことをスクープしたが、検察当局はこれに立腹し、朝日新聞に裏金捜査の情報をリークすることで読売新聞を「敗北」させ、「検察に不都合な記事を書くとこうなるぞ」と見せしめることに狙いがあったというわけだ。

検察当局のメディアコントロールを忠実に受け入れ、検察にとって最も優等生的な立場で接しているのが、朝日新聞なのである。読売がスクープした特捜部の「供述誘導」問題も、朝日新聞は検察当局を厳しく追及しなかった。今回の裏金事件の「スクープ」はそのご褒美だ。

このような「スクープ」は国策捜査に加担するものであって、ジャーナリズムと呼ぶに値しない。

政権内部の権力争いから安倍派や二階派の膿が噴き出すのは、政治の浄化を進めるものとして「歓迎」できる。安倍派や二階派を徹底批判するのは当然のことである。

しかし、検察当局を担当する社会部の司法記者たちがいま、最も追及すべきは「検察はなぜ主流3派を強制捜査しないのか」である。安倍派と二階派を狙い撃ちした国策捜査に加担する朝日新聞報道を礼賛するリベラル言論界の風潮には違和感を覚えるほかない。

検察は「正義の味方」でも「国民の味方」でもない。「時の権力者の味方」だ。司法記者がまず第一に自覚すべきことである。そして今の「時の権力者」は、キングメーカーの麻生氏なのだ。


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