永田町がいま最も注目している地方選挙――。それが5月31日投開票の新潟県知事選である。
一見すると地方の首長選にすぎない。しかし、この選挙には、現在の政界を揺るがす火種がいくつも詰め込まれている。
中道改革連合に合流するはずだった立憲民主党と公明党の対立、国民民主党の連立入り論の再燃、高市早苗首相と麻生太郎副総裁の関係修復、そして自民党の地方選連敗ストップなるか――。今年後半の政局を占ううえで「新潟」はまさに縮図となっている。
現職の花角英世知事は3選を目指す。国土交通省出身で、自民、維新の与党に加え、国民民主と公明の支援も受ける。対する新人の土田信彦氏は元県議で、立憲民主党の森ゆうこ参院議員の秘書を務めた人物。立憲、社民、そして連合新潟が支援に回る。
この構図が象徴しているのは、野党陣営の分裂である。
とりわけ注目されるのは、公明と立憲が別々の候補を支援している点だ。その板挟みになり、立憲は静観の構えだ。
公明党は地方政治では今なお自民との協調路線を維持しており、新潟でも原発再稼働に一定の理解を示す花角知事を支えてきた。一方、立憲側は、公明色を強める中道路線への反発を強めている。
その急先鋒が森ゆうこ氏だ。小沢一郎氏に近いことで知られる森氏は、中道執行部への批判を強め、首相指名選挙でも中道の小川淳也代表に投票せず、立憲独自路線を鮮明にしてきた。新潟知事選は、その路線対立がむき出しになった選挙でもある。
かつて新潟は「立憲王国」と呼ばれた。2024年衆院選では県内5選挙区を立憲系候補が独占し、知事もリベラル派論客として知られる米山隆一氏だった。しかし今年2月の衆院選では流れが一変した。高市政権への期待感と、「立憲+公明」に接近した中道勢力への反発が重なり、自民党が県内で全勝。中道勢力は壊滅的敗北を喫したのである。
その余波は今回の知事選にも及んでいる。
立憲で幹事長を務め、今は中道の副代表である西村ちなみ氏は、中道執行部が静観姿勢を取る中、土田支持を鮮明にした。旧皇族の男系男子養子案などをめぐっても小川執行部と距離を置いており、新潟では“立憲回帰”の色彩を強めている。中道内部の亀裂が、新潟で一気に噴き出した格好だ。
さらに重要なのが、国民民主党の動きである。
国民民主は今回、連合新潟と袂を分かち、花角知事支持に回った。これは単なる地方選対応ではない。背景には、自民党との連立拡大をめぐる水面下の動きがある。
国民民主はこれまで麻生氏との関係を強め、連立への参加を模索してきた。これに対し、高市首相は維新との連携を軸に政権運営を進め、“麻生・国民民主ライン”に対抗してきた。
だが4月以降、状況は変わる。高市政権の独断的運営への不満が自民党内で噴出し、高市事務所によるSNSの誹謗中傷動画疑惑なども重なった。そこで高市首相は麻生氏との関係修復に動き、麻生氏も「高市支持300人議連」を旗揚げ。党内は一転して“麻生中心の挙党体制”へと向かった。
その結果、再浮上してきたのが「国民民主の連立入り」である。
鈴木俊一幹事長ら党幹部に加え、これまで高市官邸に距離を置いてきた参院自民党からも連立拡大論が噴出。玉木雄一郎代表は慎重姿勢を崩していないものの、補正予算への対応次第では、一気に流れが変わる可能性がある。
そう考えると、新潟で国民民主が連合と決別し、自民側についた意味は重い。これは“次の政界再編”に向けた地ならしとも言える。
一方、自民党にとっても新潟は絶対に落とせない選挙だ。
自民党は2月の衆院選で大勝したものの、その後の地方選では苦戦が続いている。石川県知事選、東京都清瀬市長選、練馬区長選――。とくに自民推薦の現職が無所属新人に敗れるケースが相次いだ。さらに4月19日の市長選ラッシュでは11市長選で4勝7敗。地方での逆風は深刻である。
なぜか。
それは、自民党が「与野党対決」には強い一方、「無所属対決」には弱いからだ。
有権者は政党そのものに強い不信感を抱いている。だから相手が立憲や中道なら、自民に票が集まりやすい。しかし、相手が無所属となり、“反現職”“地域密着”の構図に持ち込まれると、自民系候補は一気に苦しくなる。
今回の新潟知事選では、公明と立憲が真正面から対立したことで、「政党対決」の色彩が強まった。自民党はそこに勝機を見出している。小林鷹之政調会長や西村康稔選対委員長ら幹部を投入し、「自民の勝利」として全国に印象づけようとしているのだ。
その先に見据えるのは、9月の沖縄県知事選である。
沖縄もまた、長く「野党王国」と呼ばれてきた。しかし2月の衆院選では野党共闘が崩れ、自民党が県内全勝を果たした。玉城デニー知事を支えてきた革新陣営にも陰りが見え始めている。
新潟と沖縄――。
二つの「野党王国」の知事選は、単なる地方選ではない。国政選挙がしばらく予定されていないなか、今年後半の政局を占う最大の前哨戦なのである。