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宇宙空間を飛んでいく北朝鮮ミサイルに大騒ぎする日本政府とマスコミへの既視感

北朝鮮が日本上空1000キロを超えていくミサイルを飛ばすたびに大騒ぎする日本政府や日本マスコミの姿をみると、東京都心の上空を大きな音を立て、大きな機体の腹を見せながら次々と横切っていく航空機とどうしても比べてみたくなる。

国際宇宙ステーションの高度は400キロ。北朝鮮のミサイルはそのはるか彼方の宇宙空間を飛び越えている。テレビや新聞が報じる「日本列島を飛び越えるミサイル」のイラストはフェイクニュースのたぐいだ。

Jアラートは北朝鮮のミサイルからの落下物に注意を喚起しているが、都民にとっては毎日、目視できるところを次々に行き交う航空機からの落下物のほうがよほど危うい。

ミサイルからの落下物が発見されたという話を私は聞いた試しがないが、航空機からの落下物は時折耳にする。ミサイルより航空機のほうが圧倒的に数が多く、低空をひっきりなしに飛行しているのだから、当然だ。

空からの落下物リスクに限って言えば、宇宙空間を飛び越える北朝鮮のミサイルよりも羽田空港に着陸するため降下してくる航空機のほうが比較にならないくらい大きい。天から物が落ちてきて直撃を喰らう確率は、ミサイルより航空機のほうが桁違いに高い。

私たちの日々の暮らしにとって、観光立国をめざして航空機の増便に躍起な国土交通省によって無理やり変更された羽田飛行ルートのほうがよほど脅威である。それが科学的思考だ。なのに日本政府も日本マスコミも非科学的な発信・報道を繰り返している。

米軍基地が集中している沖縄では、頻繁に米軍機から物体が落ちている。日本政府やマスコミが大騒ぎすべきはそちらのほうだ。

日本政府はそう説明しないし、マスコミもそう報じない。北朝鮮の脅威をあおることによほどメリットがあるのだろう。政治も政治報道も世論操作も思惑にまみれている。

もちろん北朝鮮のミサイル発射が東アジアの軍事的緊張を高めるのは間違いない。偶発的な軍事衝突を回避するためにも軍事的緊張を緩和する外交努力が必要なのは言うまでもない。

しかし、北朝鮮がミサイルを発射するのは「日本への脅し」というよりは「米国との交渉カード」の側面が圧倒的に強い。

私たちが議論すべきは、ミサイルからの落下物のリスクを煽ることではなく、東アジアの安定のために米国、日本、韓国、中国、ロシア、北朝鮮の6カ国の外交交渉の枠組みをどう整備するかである。それが外交・安保論議の本質だ。

北朝鮮は対米追従の日本政府を交渉相手とみていないことは、外交・安全保障の常識である。日本はどうせ米国の了解なしに何もできないのだから、最初から米国と交渉したほうがいいと考えるのは極めて合理的な判断だ。

テレビや新聞に登場する外交・安保専門家が「米朝の駆け引き」を解説することなく「日本の脅威」ばかりを煽っているのは、よほど専門知識に乏しいか、それを承知で北朝鮮の脅威を煽りたい日本政府の代弁をして国民をミスリードしているかのいずれかである。専門家として極めて不誠実な態度だ。

安倍内閣時代は支持率が下がると北朝鮮がミサイルを撃つというジンクスがしばしば指摘されたが、今回も岸田内閣の支持率が続落するなかでのミサイル発射となった。岸田官邸が大騒ぎしているのは、安倍内閣の政権浮揚策にならったものなのだろう。既視感がありすぎて、不快になる。

原発事故やコロナ禍で専門家と呼ばれる人々への信頼は地に落ちたのだが、外交・安全保障の専門家たちも変わりはない。彼らの多くは米国に留学し、米国の国益を叩き込まれ、米国の情報・人脈に依存し、米国の国防総省や国務省、そして米国に追従するだけの日本の外務省や防衛省の意向に沿って発言する。

私は政治取材の世界に長く身を置いたが、そう感じることが極めて多かった。私は日本の外交・安保専門家の言うことはあまり信用していない。ウクライナ戦争でも彼らは米国の国益に沿った情報ばかりを発信していた。多様化する世界情勢をほとんど理解していない。彼らが語る世界は、米国の目線でしかないと私は思っている。それでは第三世界が人口でも経済力でも台頭するこの先の国際情勢を見誤るだろう。

北朝鮮のミサイル発射をめぐる日本マスコミの報道の数々は、さらにスケールが小さい。北朝鮮への敵視を煽って政権浮揚につなげた安倍政治をいまだに引きずって騒いでいるだけだ。

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