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維新は一人勝ち、自民は逆風しのぐ、立憲は埋没で維新追従を強め野党再編も、共産れいわは深刻な敗北〜統一地方選・道府県議会選挙の各党総括

統一地方選の前半戦(都道府県と政令市)は「維新一人勝ち」で終わった。大阪府知事・市長のダブル選挙で圧勝したほか、奈良県知事選も制して大阪以外で初の公認知事を誕生させたほか、41道府県議会選挙でも倍以上の124議席を獲得し、大阪の地域政党から国政政党へ大きく踏み出したといっていい。

道府県議会選挙の結果を各党ごとに分析してみよう。

維新は躍進一人勝ち、公明との関係「リセット」

維新は本拠地・大阪の府議会と市議会の両方で初めて過半数を獲得した。これまで公明党と激突を避けて水面下で取引する場面がしばしばあったが、数の上では大阪に「単独安定政権」が実現したことになる。

維新の馬場伸幸代表は記者会見で「大阪府と大阪市の首長と、議会の過半数を預かることになれば『大阪都構想』に代わる次の大きなテーマを考えていく必要がある。それを見つけるまで、ほかの政党に何かお願いすることはない」と発言。公明現職がいる大阪と兵庫のあわせて6つの衆院小選挙区にこれまで候補者擁立を見送ってきたことについて「公明党との関係は一度リセットさせていただく」と述べ、次の衆院選では維新候補を擁立する可能性に踏み込んだ。公明党との駆け引きは続くにせよ、大阪での政治基盤は強化して自信を深めたのは間違いない。

西隣の兵庫では4議席から21議席へ大幅増を実現させた。自民から共産までの維新包囲網の前に兵庫では市長選で5連敗していたが、「兵庫の壁」をついに突破したといえるだろう。東隣の奈良で知事を獲得したこととあわせて、大阪から勢力圏を拡大する重要な一歩になった。

全国でも維新の存在感は増した。これまで議席を有するのは千葉と愛媛だけだったが、今回は41道府県のうち18道府県で124議席を獲得(選挙前の59議席の倍以上)。神奈川では初の6議席を獲得し、首都圏進出の足がかりもつかんだ。

永田町では広島サミット後の衆院解散も取り沙汰されるが、このまま総選挙に突入すれば維新のさらなる躍進の可能性は極めて高い。本格的な全国政党へ脱皮し、一向に振るわない立憲民主党にかわって野党第一党にのしあがる展開も十分にあるだろう。維新の台頭が野党再編→政界再編の引き金を引くかもしれない。

維新は結党以来、党運営を主導してきた松井一郎氏が引退し、馬場伸幸代表ー吉村洋文知事の新体制で全国政党への脱皮を進めることになる。国会では立憲と共闘しているが、立憲との選挙協力に踏み出す可能性は極めて低い。解散風が強まれば立憲との対決姿勢を強め、野党第一党を奪取することを最優先に掲げるだろう。

自民はしぶとく逃げ切り

自民党は41道府県で86議席を減らして1153議席だった。

しかし大阪以外の40議会では第一党を維持し、そのうち24議会では過半数を獲得した。今後、無所属で当選した議員が追加公認されることも予想され、現状勢力をほぼ守った選挙戦だったといえるのではないか。

昨年夏の参院選で安倍晋三元首相が急逝した後、旧統一教会と自民党の歪んだ関係に世論の批判が高まった。自民党で旧統一教会との密接な関係を指摘された政治家は、国会議員だけでなく地方議員にも多数いたため、今回の統一地方選は大逆風が予測されていた。それにしては議席減を最小限に食い止めた格好だ。

岸田内閣の支持率は回復傾向にある。しかも維新躍進で野党第一党の立憲民主党の存在感は低下しており、野党分断工作は奏功している状況だ。自民一強の政権基盤に大きな変化はない。

統一地方選の後半(4月23日投開票)とあわせて実施される衆参5補選で全勝すれば、自民党内で5月の広島サミット後の衆院解散を求める声がさらに高まるだろう。一方、5補選が思わぬ苦戦となれば、岸田降ろしの動きが再燃するかもしれない。党内諸勢力は衆参5補選までは様子見を続けるだろう。

立憲は埋没、維新追従強め野党再編も

立憲民主党は41道府県で7議席増の185議席を獲得した。議席を減らしたわけではなく、泉健太代表はツイッターに「大善戦です」と投稿して胸を張ったが、これは大間違いだ。

知事選では唯一、自民党と激突する構図となった北海道で惨敗。その他は「相乗り」が目立ち、自民党との対決構図は薄れた。しかも奈良県知事選では元総務官僚を高市早苗大臣とともに応援して維新に敗れるという最悪な展開に。道府県議会選挙でも維新躍進の陰に埋没し、野党第一党としての存在感は失われていく一方だ。

昨夏の参院選で惨敗した後、共産党やれいわ新選組との共闘を見限り、「自公の補完勢力」と揶揄してきた維新との共闘に転換。維新の背中を追って安全保障政策や原発政策、憲法改正への姿勢も「右」へ大きくシフトしている。今回の統一地方選で維新がさらに台頭したことで立憲の維新追従はますます強まるだろう。

とはいえ、維新が立憲との本格的な選挙協力に踏み出す可能性は極めて低く、次の衆院選では野党陣営は戦う前から崩壊状態に陥ることが予想される。これでは選挙に勝てないという危機感が広がれば、2017年に当時の野党第一党だった民進党が空中分解して小池百合子・東京都知事の希望の党になだれ込んだ時と同様の野党再編が再現されるかもしれない。

立憲は維新の台頭で相当な危機的状況に陥ったといえるだろう。

共産・れいわは深刻な敗北

共産党も深刻だ。41道府県議会で24議席減の75議席にとどまり、新潟、福井、静岡、福岡、熊本の5県議会で議席を失った。

共産党の惨敗は、統一地方選前に20年以上に及ぶ志位体制を批判して党首公選制を訴えた党員を除名して「言論の自由の弾圧」と世論から激しい批判を受けた影響が大きいだろう。党内での異論を封じる民主集中制を引き締めたことは、強固な党員層を固める効果はあったものの、無党派層の警戒感・拒否反応を引き起こし、統一地方選での支持拡大を大きく阻んだとみられる。

志位執行部がそうした現実を直視して内向きの党運営のあり方を大きく見直さない限り、次の衆院選ではさらなる逆風を浴びて議席を大幅に減らす可能性がある。共産党は大きな岐路に立っている。

立憲に梯子を外されたことがはっきりしているのに、立憲の背中を追って「立憲との共闘」の幻想を追い続けている状況も深刻だ。志位執行部が決断した「立憲との共闘」を見直すことができず、それに手足を縛られ、立ち往生しているようにみえる。上層部が一度決めたことを批判することは許されず、なかなか軌道修正できないという党運営の硬直性が、共産党の最大の弱点だ。

れいわは獲得議席ゼロの深刻な敗北だった。新興勢力の参政党が4議席を獲得(青森、石川、福井、熊本)したのと比べて、明暗がくっきりわかれた格好だ。

れいわ退潮の最大の要因は、2019年参院選で旗揚げした時とくらべて存在感が大きく陰ったことだろう。

山本太郎代表が衆院から参院へ鞍替えした昨夏の参院選後、大石晃子・櫛渕万里の両衆院議員を共同代表に起用したあたりから党運営を巡るゴタゴタが各地で相次ぎ、内向きな対応に追われた。山本代表が国会質問やテレビ出演、SNSに登場する機会は大きく減って「党の顔」がぼやけ、支持層は拡大しなかった。

統一地方選挙でも全国注目の大阪ダブル選挙や神奈川知事選などに独自候補を擁立せず、各地でも知名度が高い候補者がいなかったため、れいわが「注目区」でメディアに取り上げられることはなかった。参政党や旧NHK党が大阪や神奈川の注目知事選に独自候補を擁立してメディアへの露出を増やしたのとは対照的だ。旧NHK党が参政党との対立やガーシー問題で話題をさらうなか、れいわの国会での牛歩戦術は実直ながらも世論を喚起することはできず、政界で埋没感を深めた。

統一地方選の前半に続いて後半でも惨敗すれば「れいわでは選挙に勝てない」というイメージが広がり、今後の国政選挙でも候補者が集まらず、山本代表が掲げる「中規模政党への脱皮」はますます遠のく。党再建には共同代表制を含め党運営のあり方を抜本的に見直し、「選挙に強いれいわ」「熱烈なボランティアが集まるれいわ」という結党当初のイメージを回復することが急務である。

そもそも山本代表のカリスマ性で支持者を引き寄せてきた政党である。党体制の脆弱さを直視し、もういちど原点に立ち帰って山本代表を前面に打ち出した党体制を再構築するしかない。

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