高市早苗政権が発足してわずか4か月。衆院選で歴史的な大勝を収め、高支持率を維持してきた政権が、今、大きな危機に直面している。
発端は週刊文春が報じた「ネガキャン動画疑惑」だ。
高市総理の公設秘書が、自民党総裁選や衆院選においてライバル候補を攻撃する動画の制作・拡散を外部に依頼していたという疑惑である。さらに問題を複雑にしているのは、高市総理自身の説明が二転三転していることだ。
これまで高市氏は、旧統一教会問題や政治資金をめぐる批判など数々の逆風を乗り越えてきた。しかし今回の疑惑は様相が違う。野党やリベラル派だけでなく、これまで高市氏を支えてきた保守層や安倍晋三元総理の周辺からも批判が噴出しているのである。
なぜ今回の問題はここまで大きな広がりを見せているのか。
最大の理由は、「政策論争」ではなく「人間性」への疑念に発展していることにある。
象徴的だったのが、安倍元総理に近いことで知られる元NHK記者の岩田明子氏の発言だ。
テレビ番組で「手ぎわが悪い。謝るべきところは謝るべし」と苦言を呈した。
さらに衝撃的だったのは、安倍氏と最も親しい民間人として知られる幻冬舎創業者の見城徹氏の発言である。
見城氏はYouTube番組で、安倍氏が生前、高市氏について「二度と応援しない」と語っていたことを明らかにし、高市氏は自らを安倍後継者のように見せているだけだと証言した。
これまで高市氏の最大の政治資産は「安倍政治の正統後継者」というイメージだった。
しかし今回の騒動では、その土台を支えていた保守層の一部からも距離を置く動きが出始めている。
疑惑の核心は、自民党総裁選の最終盤にある。
高市氏の公設第一秘書とされる木下剛志氏が、AIやSNSに詳しい起業家の松井健氏と接触。対立候補に対するネガティブ動画の制作について協議したと週刊文春は報じてきた。
松井氏は、自らが大量の動画を作成し、小泉進次郎氏や林芳正氏らを標的にしたコンテンツをSNS上で拡散したと証言している。
さらに衆院選では、野党有力候補への攻撃動画制作も依頼されたと主張している。
もちろん、これらは当事者の証言や報道に基づくものであり、今後さらなる検証が必要だ。しかし政治的に重要なのは、疑惑の中身以上に、高市側の説明が一貫していないことだ。
高市総理は当初、松井氏について「私も秘書も面識がない」と説明していた。
ところがその後、「実際に会ったことはない」「名刺交換はしていない」と説明が変化した。
さらに当初は否定したZoom会議についても、後に「事務所から回答した内容だった」と修正し、会議があったことを認めた。
政治スキャンダルでは、疑惑そのものより説明の変遷が致命傷になるケースが少なくない。
有権者は「何が起きたのか」以上に、「なぜ説明が変わるのか」を注視するからだ。
今回の問題が長期化している背景には、まさにこの点がある。
さらに新たな火種となっているのが「サナエトークン」をめぐる問題である。
報道によれば、松井氏が推進したデジタル資産構想について、高市事務所関係者との間で複数回のZoom会議が行われたという。
その後、トークンの運用をめぐり無登録営業や利益供与の可能性がネット上で指摘され、金融当局も調査に乗り出したと報じられている。
疑惑は単なる選挙戦術の問題から、政治と新たな金融ビジネスの関係へと広がりつつある。
そして決定的だったのは、「がん闘病秘書」をめぐる混乱だろう。
参院予算委員会で高市総理は、自身の秘書がステージ4のすい臓がんと闘っているると紹介した。
ところが後になって、実際には別の同姓の秘書だと判明した。秘書の名前をあえて国会で明かした高市首相の意図を訝しがる声が広がっている。
政治において危険なのは、一つひとつの問題ではない。
小さな疑問が積み重なり、「説明が信用できない」という空気が形成されることだ。
高市政権はこれまで、保守層の強固な支持を背景に批判を跳ね返してきた。しかし今回は、その支持基盤の内部からも疑問の声が上がり始めている。
さらに党内では、麻生太郎氏や国民民主党との連携を模索する勢力と、高市氏や日本維新の会に近い勢力との路線対立もくすぶる。
ネガキャン動画疑惑は単なるスキャンダルではない。
高市政権の求心力低下をきっかけに、自民党内の権力構造や将来の政界再編にまで波及する可能性を秘めている。
今後の焦点は明確だ。
高市総理が疑惑そのものを否定できるかではない。
説明の食い違いを整理し、国民に納得できる説明を行えるかどうかである。
政権発足以来最大の危機は、まだ始まったばかりだ。