先週末に実施されたマスコミ各社の世論調査は、多くの政治関係者を驚かせた。
高市早苗内閣の支持率が、メディアによって全く異なる動きを示したからだ。
読売新聞は支持率69%で前回より5ポイント上昇。朝日新聞は60%で横ばい。一方、共同通信は55.8%で5.5ポイント下落した。
数字そのものにも差はあるが、より重要なのは前回調査との比較である。政権の勢いが増しているのか、それとも失速し始めているのか。その方向性が完全に割れてしまったのだ。
では、いったい何が起きているのか。
この謎を解くことは、高市政権の現在地を理解するうえで極めて重要である。
なぜなら、高市政権は自民党内の強固な基盤によって支えられている政権ではないからだ。
むしろ党内基盤の弱さを国民人気で補ってきた政権である。その国民人気に変化が生じているとすれば、今後の政局に大きな影響を及ぼす可能性がある。
まず、多くの人が抱く疑問は「世論調査は本当に正確なのか」という点だろう。
新聞社によって数字が違うため、「どこかが操作しているのではないか」と考える人もいる。
しかし、実際に新聞社で世論調査を担当した経験者の多くが証言するように(私もひとりである)、大手メディアが支持率を恣意的に操作することはない。
もちろん調査方法には違いがある。
固定電話と携帯電話の比率、回答者の抽出方法、無回答者の補正方法など、各社それぞれの手法が存在する。
一般的には、読売新聞は保守層や高齢層の声を比較的拾いやすい傾向があり、朝日新聞はリベラル層の意見が反映されやすいといわれる。共同通信は無党派層の動向に敏感だという指摘もある。
こうした違いが、支持率そのものの差を生み出す要因になることは間違いない。
しかし、それだけでは今回の現象を説明しきれない。
なぜなら問題は各社の「絶対値」ではなく、各社それぞれの調査の前月比での「増減」だからだ。
同じ政権について、ある調査では支持率が上がり、別の調査では下がっている。
しかも内閣支持率の質問は通常、調査の最初に行われる。設問の聞き方も大きく変わらない。
そう考えると、単なる調査手法の違いだけで説明するのは無理がある。
そこで浮かび上がるのが、「支持と不支持の境界層が大きく揺れている」という見方だ。
つまり、高市政権には熱心な支持層が存在する一方で、「支持するほどではないが期待している」「今のところ他に選択肢がない」と考える人々も多い。
この層が、このところめまぐるしく変化する国際情勢や経済動向、政局状況によって支持と不支持の間を行き来している可能性がある。
高市政権は今、まさにその状態にあるのではないか。
実際、高市政権を取り巻く環境を見ると、追い風と向かい風が同時に吹いている。
向かい風としてまず挙げられるのは、いわゆる「ネガキャン動画疑惑」である。
国会では高市首相の説明が二転三転し、野党から追及を受けている。政権への不信感を招く要素になっていることは否定できない。
さらに中東情勢の緊迫化による物価高懸念、消費税減税をめぐる論争、皇室典範改正問題など、国論を二分しかねないテーマが相次いでいる。
特に皇室問題は、高市政権の支持基盤である保守層の中でも意見が分かれる。
一方で、高市政権には強い追い風もある。
それは「他に代わる勢力が見当たらない」という現実だ。
野党は依然として分裂状態にあり、政権交代への期待は高まっていない。
自民党内にも決定的なポスト高市候補が見当たらない。
高市首相への不満があっても、「では誰に代えるのか」という問いに明確な答えがないのである。
この状況が高支持率を支えている。
共同通信の調査では、30代以下で支持率が13ポイント以上下落し、女性層でも大幅な低下が見られた。
これは注目すべき変化だ。
高市政権は発足当初、「新しい保守政権」への期待感によって幅広い支持を集めた。しかし、そのご祝儀相場のような時期は終わりつつあるのかもしれない。
支持率が急落しているわけではない。
だが、「何をやっても支持される時期」が終わり、一つひとつの政策や説明責任が厳しく問われる段階に入った可能性がある。
来年の自民党総裁選、さらに再来年の参院選を見据えれば、今が大きな転換点となる。
もう一つ注目すべきなのは政党支持率だ。
共同通信の調査では、自民党支持率は38.7%で前回より上昇した。
国民民主党、中道改革連合、参政党などが続くものの、自民党との差は大きい。
結局のところ、現在の政治状況は「自民一強・野党多弱」の構図から大きく変わっていないのである。
だからこそ、高市政権の支持率は単純な上昇や下降ではなく、「揺れている」と表現するのが最も実態に近いだろう。
熱狂的な支持はやや後退し始めた。
しかし、その受け皿となる勢力も見当たらない。
高市政権は依然として高い支持率を維持しているが、その中身は確実に変化している。
今回の世論調査が示したのは、高市政権の終わりではない。
むしろ、本当の意味での評価が始まる局面に入ったということではないだろうか。
高支持率政権から実力が試される政権へ――。
世論調査の「真逆の結果」は、その転換点を映し出しているように見えるのである。