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新聞記者やめます。あと21日!【「陰謀論を信じる」というより「マスコミを信じていない」〜フェイクニュース蔓延の原因から目を背けるな】

朝日新聞が連休中にデマや陰謀論が広がる現状を報告する連載「かすむリアル」を展開した。福井県議会議長を務めた自民党県連ナンバー2のベテラン県議が「コロナのワクチンにはマイクロチップが入っていて、5G電波で操られる。打てば5年で死ぬ」と語る連載初回のエピソードは衝撃的で、フェイクニュースが予想以上に蔓延している実態が伝わってきた。

一方で、なぜフェイクニュースが支持されているのかという原因については「孤独な人の増加が背景にある」「現状に不満や不安を持つ人に陰謀論は魅力的」「コロナが拍車をかけた」といった分析にとどまり、物足りなかった。なぜ分析が不十分に終わったかというと、フェイクニュースの蔓延はマスコミ不信と密接に関係しているのに、一連の連載で「新聞不信」の実態を真正面から問うことにためらいがあったからであると私は思う。

私の知人にも「コロナワクチンで操られる」という陰謀論を信じている人がいる。いや、「信じている」というよりは「そのようなことがあってもおかしくはない」と思っている、といったほうが正確だ。極めて人当たりがよい人物だし、論理的な思考能力もできる。立派にビジネスも展開している。それでも陰謀論に耳を傾ける理由は、ひとえに「マスコミのニュースを信じていない」からだ。

はじまりは福島第一原発の事故だった。本当は東日本が壊滅する危機だったのに、当時の民主党政権はそれをひた隠し「ただちに影響はない」と言い続け、マスコミはその大本営発表を垂れ流すばかりだった。そのあたりから政府公式発表や、それを垂れ流すマスコミ報道への不信感が強まった。いったんそうなると、政府やマスコミのことは何から何まで信じられなくなる。福島原発にたまった「水」を海洋放出することも、除染作業で取り除いた「土」を再利用することも、いくら政府やマスコミが「安全」といったところで疑わしい。

民主党から自民党へ政権が変わると、今度は国会での虚偽答弁や公文書の改竄・廃棄が相次ぎ、ますます信用できなくなった。そこへ襲ってきたコロナ禍。政府が言うことはコロコロかわる。マスクも給付金もなかなか届かない。PCR検査抑制論を唱える専門家の声を大きく報じるマスコミをみるにつけ、何が本当かわからなくなった。

間違いなく言えることは「自分たち庶民はすべてを知らされていない」ということだ。この国の政治家や官僚は、自分たちにとって不都合なことを隠す。マスコミもそれを報じない。ならば自分の身は自分で守るしかない。何が正しいかは自分で見極めるしかない。陰謀論が絶対に正しいとは思わないが、「そういうことがあってもおかしくはない」とは思う。ならば警戒するにこしたことはないーーということになる。

ワクチンでいえば「打てば操られる」可能性がすこしでもあるのなら、無理をして打つ必要はない。操られることまではないとしても、重大な「副作用」が隠されているのではないか。若い人はコロナに感染しても重症化リスクが少ないにもかかわらず、マスコミが「変異株は若い人も危ない」という専門家の声を強調して報じるのは、若者を怖がらせて自粛させるための情報操作ではないのか。ワクチンを打つリスクは打たないリスクよりも高いのに、政府もマスコミもそれを隠しているーー彼らはそう考えている。

陰謀論をかたくなに信じているというよりも、マスコミが報じる政府や専門家の見解とネットに流れる陰謀論を同列に扱っているというのが私の印象だ。つまり、「陰謀論を信じている」というよりは「マスコミ報道を信じていない」のだ。

陰謀論に耳を傾ける人々に共通するのは「マスコミ不信」である。ここに踏み込まずして「なぜ陰謀論が広がるのか」という問いの答えは見つからない。そこから目を逸らして「陰謀論が広がっている実態」をいくら批判的に報じても、陰謀論の拡大を食い止めることはできない。陰謀論の拡大を伝えるマスコミ報道自体が陰謀論と同列に扱われてしまうだけだ。

まずはマスコミが信頼を回復させなければならない。どうすればよいのか。マスコミ各社は「しっかり説明する」という言葉を好むが、自分たちを正当化する論理をいくら「説明」したところで、「マスコミ不信」の人々は耳を貸さない。大事なことは、報道からタブーをなくし、洗いざらい表に出すことだ。

例えば、コロナ初期に日本社会を席巻した「PCR検査抑制論」について自らの報道を再検証し、その妥当性を問い直すことは不可欠である。さらに「先進国でワクチン接種が最下位」という政府にとって不都合な事実を激しく追及することで、「マスコミは政府と一体化している」「大本営発表を垂れ流している」という不信感をやわらげることができるだろう。東京五輪のスポンサーとして五輪歓迎報道を続けるのは致命的だ。「何かを隠している」「何かを抑え込んでいる」という印象をすこしでも抱かれたら、おしまいである。新聞社の内部からあがる「新聞批判」を封じることなど、もってのほかだ。

フェイクニュース拡大を招いた最大の原因は「マスコミ不信」にあることを、まずは記者たち自身が受け止めなければならない。

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