自民党内で最も石破茂首相を嫌っている男、それは麻生太郎元総理である。
麻生氏が石破氏をここまで憎む理由は、彼が首相を務めていた時にまで遡る。当時、石破氏は農水大臣として入閣していたが、内閣支持率が下がるや否や、真っ先に麻生おろしに動いたのだ。
政治の世界では「怨念は消えない」と言われるが、麻生氏はその中でも特に根に持つタイプである。
昨年の自民党総裁選で、麻生氏が高市早苗氏を支持したのも、石破氏だけは首相にさせないという一点のためだった。
しかし、結果は敗北。石破政権が誕生したことで、麻生は自民党副総裁の座を追われ、名誉職である最高顧問に棚上げされてしまった。これにより、彼は「キングメーカー」の座から陥落し、悔しさを募らせている。
現在、麻生氏は予算成立後の「石破おろし」の準備を着々と進めている。自民党内には「支持率の低迷する石破では参院選を戦えない」という声が広がっており、麻生氏はこの流れに乗って、一気に石破首相を引きずり下ろすつもりだ。
石破おろしはそれほど難しくない
麻生氏にとって、石破おろしのハードルはそれほど高くない。
最大の要因は、目前に迫った参院選である。内閣支持率が低迷すれば、党内から「石破では勝てない」という声がさらに強まることは確実だ。
さらに、麻生氏は長年の影響力で官僚機構にも太いパイプを持つ。財務省、外務省、総務省、さらには検察まで、麻生シンパの官僚は少なくない。彼らが政権のスキャンダルをマスコミにリークすれば、石破政権の基盤は一気に揺らぐだろう。
また、石破首相を支える党内勢力も極めて脆弱だ。石破派はすでに消滅しており、彼を熱心に支援する議員はほとんどいない。昨年の総裁選で石破氏が勝利したのも、高市氏阻止の「消去法」で選ばれただけであり、党内の求心力には欠ける。
森山裕幹事長や林芳正官房長官も、石破首相と運命を共にするつもりはない。さらに、国会で審議される企業団体献金の全面禁止や選択的夫婦別姓の法制化など、党内に反発を生む政策が後半国会の焦点になることも、石破首相にとって重荷となる。
こうした要素が重なれば、麻生氏が積極的に仕掛けなくても、石破おろしは自然に動き出す可能性が高い。
唯一の派閥・麻生派
昨年の総裁選では、派閥に属さない石破氏と高市氏が決選投票に進み、自民党内の派閥の影響力が弱まったことを印象付けた。
しかし、派閥の「数の力」は未だに健在である。
裏金事件で多くの派閥が解消される中、唯一生き残ったのが麻生派だ。麻生氏は総裁選の鍵を握る「最後の派閥」としての存在感を高めつつある。実際、消滅した派閥のメンバーには麻生派に合流したいと考える議員も出始めており、山口壮元環境相はその第一号となった。
麻生氏は、裏金事件の逆風に耐え抜いた麻生派の力を、今こそ見せつける時だと考えている。総裁選に向けた動きが本格化すれば、麻生派はさらに影響力を増していくことだろう。
ポスト石破は誰か？
石破首相を引きずり下ろした後、麻生氏が担ぐ「次の総理候補」は誰か。
麻生氏自身は現在85歳。再登板の可能性もゼロではないが、現実的には難しい。
昨年の総裁選で麻生氏が支持した高市氏も、もはや本命ではない。そもそも麻生氏が高市氏を推したのは「石破阻止」のためであり、高市氏自身を支持していたわけではない。
麻生氏が寵愛していた茂木敏充氏も、昨年の総裁選で惨敗し、６位に沈んだ。参院選前の総裁選となれば、「茂木で勝てるのか？」という空気が広がり、支持を集めるのは難しい。
そこで浮上しているのが、小林鷹之氏だ。東大卒・財務省出身という経歴は、エリート好きの麻生にはぴったりである。昨年の総裁選では、安倍派の中堅・若手に加え、麻生派の重鎮・甘利明氏らの支援を受け、５位に食い込んだ。甘利氏が政界を引退した今、小林氏の後見人として麻生氏が名乗りを上げたと言われている。
ただし、小林氏も麻生氏の本命とはいいがたい。主流派が林芳正官房長官を擁立すれば、政治キャリアの違いから総裁選に勝てるか疑問だからだ。
林氏に対抗するには、主流派を分断するしかない。そこで名前が挙がるのが、林氏の親分格である岸田文雄前首相である。岸田氏はYouTubeチャンネルを開設し、国民的人気の回復を狙っている。内閣支持率の低迷で退陣を余儀なくされたが、「もう一度、総理の座を狙いたい」という思いは強い。
麻生氏と岸田氏は岸田政権末期に関係が悪化し、総裁選でも対立したが、関係を修復して再び手を組む可能性は十分にある。
ポスト石破の行方は、小林氏か、林氏か、岸田氏か──。麻生氏がどのカードを切るかで、ポスト石破レースは大きく変わってくる。