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岸田首相が防衛大学校卒業式で語った「今日のウクライナは明日の東アジア」という無責任な言葉〜「ウクライナ外交の失敗」を正しく認識していないことに根本原因がある

岸田文雄首相が3月26日、防衛大学校(神奈川県横須賀市)の卒業式で「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と訓示した(こちら参照)。

この首相発言は極めて無責任だと私は思う。なぜなら、今日のウクライナのように国土が戦争で荒れ果て、多くの国民の命が犠牲になる事態を防ぐことが首相の最大の責任だからだ。

首相ならば本来「今日のウクライナのような悲劇を招かないように、東アジアの平和と安定を守り抜く決意だ」と語らなければならない。そのうえで、どのようにすれば東アジアの平和と安定を守れるのか、対米追従外交で大丈夫なのか、米国と覇権争いを強める中国とどう向き合うのか、欧米と激突するロシアや核・ミサイル開発を続ける北朝鮮とどう向き合うのか、開戦を避けることができなかったウクライナの教訓をもとに、戦争を回避する日本外交を構築するのが首相の責任のはずだ。

ならず者国家が攻めてきたとしても、「他国が悪い」という言い訳は、自国民に対しては通用しない。ならず者国家であっても攻めてこないようにするのが、国家の外交・安全保障政策の要諦である。

岸田首相が自身の責任を棚上げし、他人事のように「今日のウクライナは明日の東アジア」と無責任に言ってのけるのは、「ウクライナはなぜ今日のような悲惨な状況に陥ったのか」という現状認識を見誤っているからであろう。

ロシアがウクライナに軍事侵攻したのは国際秩序を乱す暴挙である。しかもロシアは国連常任理事国であり、率先して国際秩序の安定を保つ責任がある。それなのに、自ら国際秩序を打ち破った責任は極めて重いのは論を俟たない。

しかし、たとえロシアが悪いとしても、ウクライナのゼレンスキー政権が「戦争を回避する」ことに失敗したのは揺るぎない事実である。ゼレンスキー政権は「戦争を回避する」という、国民に対して果たすべき最も重要な任務を果たすことができなかった。外交に失敗したのである。

ゼレンスキー政権はロシア軍の侵攻前、米軍から巨大な軍事支援を受け、軍事的緊張を高めた。外交努力を積み重ねれば戦争は回避できた可能性は高いのに、対米追従姿勢を強めて軍事侵攻を招いてしまった。米国に軍事的な依存を強め、米国製の武器を大量購入し、ロシアとの軍事的緊張を高めたことは、結果として失敗だったのである。これこそ、ウクライナから私たち日本が学ぶべき教訓だ。

東アジアに置き換えれば、仮に中国やロシア、北朝鮮が一方的に日本に軍事侵攻した場合、それらの国が悪いことは当たり前だが、そのことと、日本政府が「戦争を回避する」という最も重要な責任を果たすことに失敗したことは別問題である。他国がどうであれ、自国の国民の命を守ることは国家の最大の責務なのだ。

ウクライナ戦争の泥沼化・長期化で、米国の軍需産業やエネルギー業界は潤っている。バイデン大統領が停戦合意に動かないのは、米国の国益や大統領再選構想にとって戦争の長期化はむしろ好ましいからであろう。

岸田首相はウクライナ戦争を受けて、米国から敵基地攻撃能力を持つトマホークを2000億円で400基購入するなど米国への軍事依存を強め、戦後日本の国是である専守防衛から逸脱しようとしている。これはロシアの軍事侵攻に備え、米国への軍事依存を深め、米国から大量の武器支援を受け、かえってロシアとの軍事的緊張を高めて戦争を招いてしまったウクライナと同じ道をたどっているのではないか。ウクライナ外交の失敗から何も学んでいないというほかない。

岸田首相だけではない。日本の外務省や防衛省も、彼らにべったりの外交安保専門家やマスコミも、対米追従の思考回路から抜け出せず、ウクライナ外交の失敗を正しく理解せず、「ウクライナ=正義、ロシア=悪」の善悪二元論ばかりでウクライナ戦争を眺め、とにかく米国に同調することばかり訴えているから、「今日のウクライナは明日の東アジア」という泥沼にみずからはまり込もうとしているとしか私には思えない。

米国への軍事依存を強めて軍事的緊張を高めるよりも、東アジアの政治的・経済的関係を強化して軍事的緊張を緩和することが、戦争回避への道である。重要なのは軍事増強ではなく外交交渉だ。

米国は自国の国益が第一であり、日本のことなど二の次だ。当たり前である。まずは冷徹な国際政治の現実を直視すべきだ。対米追従で軍事力強化に走る岸田政権は、ゼレンスキー政権の背中を追っているようにみえる。それでよいのか。日本はかなり危うい局面に来ているといっていい。

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