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郵政選挙に学ぶ「裏金解散」はあるか?安倍派五人衆を除名して公認せず、悪役に仕立てて対抗馬を立てる(刺客を送り込む)〜劇場型選挙を演出する度量が岸田首相にあるか?今後予測される3つの道

岸田文雄首相が密かに検討している4月裏金解散をめぐり、自民党への逆風を追い風にかえる奇策が永田町で囁かれている。安倍派や二階派の「裏金幹部」を除名し、総選挙で公認せず、彼らの選挙区に「刺客」を送り込んで(つまり対抗馬を立てて)、自民党への支持を回復させる選挙戦術だ。
お手本としているのは、小泉純一郎政権が2005年に断行した「郵政選挙」である。

小泉首相は2005年、悲願である郵政民営化法案が参院で否決されたことを受け、「国民の意見を聞いてみたい」として衆院解散に踏み切った。

参院による法案否決に対抗して衆院を解散することが理にかなっているかどうかはともかくとして、この郵政解散に世論は熱狂し、小泉政権はこの選挙に圧勝して郵政民営化法案は成立したのだ。

最大の勝因は、小泉自民党が郵政民営化反対派を公認せず、さらにはその選挙区に対抗馬を立て、落選させる選挙戦術を徹底したことである。総選挙は、自民党の民営化派vs自民党の民営化反対派vs野党の三つ巴の構図となったのだ。

野党の民主党は当初、自民党分裂による政権交代の好機と浮かれた。ところが、自民党の民営化派vs民営化反対派の内ゲバの選挙戦に世論の関心は集中し、野党は埋没した。世論の支持は自民党の郵政民営化派に殺到し、小泉自民党の圧勝に終ったのである。

世論は野党への政権交代よりも自民党の再生に期待したといえるだろう。

郵政はかつての自民党の最大派閥・経世会(現在の平成研究会・茂木派)の牙城だった。小泉首相の郵政民営化には、経世会の権力基盤を壊滅させる派閥間闘争の側面も強かったといっていい。

この郵政選挙の結果、経世会(平成研)は壊滅状態となり、清和会(のちの安倍派)が最大派閥として君臨する時代が本格化したのである。

この郵政解散を、現在浮上している「裏金解散」に重ねて分析してみよう。

岸田首相も出席して裏金疑惑をめぐる政倫審が開催されたものの、安倍派幹部たちの証言は食い違い、裏金疑惑は深まるばかりで、内閣支持率に回復の兆しはない。


岸田首相は3月末の予算成立を受け、4月10日の訪米直後の「4月解散」を断行し、9月の自民党総裁選での再選へ大きく前進する構想を描いているが、このまま支持率が低迷していては解散どころではない。何としても支持率回復が必要なのだ。

そこで浮上しているのが、裏金疑惑の説明責任を果たさない安倍派と二階派の幹部たちを「悪役」に仕立てて除名処分としたうえで解散総選挙を断行し、公認もしないで落選させる大胆な選挙戦略である。

岸田首相は当初から裏金議員を党として処分する意向を示しているが、具体的な処分は先送りしてきた。3月17日の党大会以降に先送りする方針との報道もある。

野党はこれを批判しているが、私はむしろ予算成立後に4月解散の機運が高まるまで「処分カード」を温存しているのではないかとみている。解散風が高まったところで一気に処分カードを切り、内閣支持率を引き上げる作戦だ。

裏金を受け取っていた衆院議員51人全員を除名すると、自民党が大きく議席を失う可能性もある。そこで安倍派5人衆ら一部幹部だけを悪者に仕立て、彼らを「成敗」する構図を作り上げようというわけだ。

さらに選挙区に刺客を送り込めば、まさに郵政選挙の再来といっていい。「自民・非裏金組vs自民・裏金組vs野党」の三つ巴の選挙戦に持ち込み、裏金批判をかわす狙いである。

幹部を除く裏金議員たちについては、除名を見送り、公認はするものの、比例重複の立候補は認めず、選挙区で自力で勝ち上がって禊を済ませることを迫る案もあろう。

岸田首相がこの「裏金解散」に勝利すれば、9月の総裁再選へ大きく前進し、長期政権が見えてくる。清和会支配は完全に終焉する一方、派閥政治は徐々に復活し、岸田首相が率いる宏池会時代へ移る節目の総選挙だったと政治史上は総括されることになるかもしれない。

もちろん、自公与党の大反対を振り切って「裏金解散」に踏み切るのは容易ではない。しかも裏金幹部を除名して公認しないのは、自民党の世界では「狂気の沙汰」である。

それをやってのけたのが小泉首相だった。岸田首相にそこまでの胆力が備わっているかどうかはわからない。

とはいえ、昨年末に裏金事件が発覚した後、独断専行で宏池会解散を表明し、さらには首相としては史上初となる政倫審出席もサプライズ表明した。「岸田首相は何をしでかすわからない」という恐怖心が自民党内に広がっているのも事実だ。

いずれにせよ、岸田首相にはおおきくわけて三つの道がある。
①裏金議員を除名する裏金解散で総選挙に勝利→総裁再選を果たして長期政権に
②裏金議員を守りながら解散総選挙→自公議席減で政局混迷も
③総裁選前の解散見送り→9月退陣

これから政局はどんどん緊迫度を増してくる。

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