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ポスト岸田を狙う茂木幹事長のペルー・ブラジル外遊の狙いと幹事長留任への自信〜茂木氏の去就は岸田首相と麻生氏の関係を図るバロメーターに

ポスト岸田を狙う自民党の茂木敏充幹事長がこの夏の外遊先に選んだのは、ペルー、ブラジル、ポーランドだった。同行記者団を引き連れて普段は容易に訪れることのできない地域を漫遊かと思いきや、それなりに立派な狙いがあるのだという。

ペルーは来年のAPECの議長国、ブラジルはG20の議長国。来年9月の自民党総裁選で茂木氏が勝利して首相になったら、首脳外交の相手としてただちに重要となる国々なのだ。

ポーランドはウクライナ支援の拠点である。バイデン米大統領が思い描くように、ウクライナの反転攻勢が成功したうえでロシアとの停戦が実現すれば、ウクライナ復興への日本の貢献が求められる。ポーランドも貴重な首脳会合の相手となる。

つまり、一年後の茂木政権誕生を見越して、いまのうちにこれらの国々との信頼関係を構築しておこうというわけだ。

それにしても自信満々である。茂木氏は昨年秋に岸田内閣の支持率が急落した後、ポスト岸田への意欲を隠さなくなり、岸田首相から警戒され、ふたりの関係はギクシャクするようになった。今春には訪米してポスト岸田をアピールし、ますます岸田首相に睨まれている。9月に予定される自民党役員人事では、岸田首相が茂木幹事長を更迭するか否かが最大の焦点となっている。

そのなかで、あえて岸田首相を刺激するような夏の外遊に踏み切ったのは、決して幹事長を更迭することはないという茂木氏の自信の表れだろう。茂木氏の後ろ盾である麻生太郎副総裁が「茂木推し」で揺るがないことに加えて、茂木派に大きな影響力を残しつつ茂木氏を毛嫌いしていた青木幹雄元官房長官が6月に他界したこと、さらには岸田内閣の支持率が再び急落したことも、茂木氏の自信を裏支えしているに違いない。

だが、茂木氏の自信の根拠は確かなのだろうか。楽観すぎるのではないだろうか。

麻生氏も82歳となり、影響力にかげりがみえる。岸田首相が煽りに煽った6月解散を見送った後、政敵の菅義偉前首相と茂木氏をゴルフに誘い、歩み寄りを演出したのも、茂木幹事長留任への環境づくりを整える狙いがあったのだろう。

しかし、麻生氏や茂木氏は公明党との距離が遠く、自公対立が深まるなかで、疎遠ぶりが露呈した。岸田首相が次の衆院選に向けて自公関係を再構築するには、菅氏や二階俊博元幹事長の力を借りたほうが手っ取り早い。菅氏や二階氏が条件として提示するのは、やはり茂木幹事長の交代だろう。

茂木派内では、次世代のポープである小渕優子元経産相が存在感を増し、9月の人事で官房長官など要職に抜擢されるとの見方が広がっている。後ろ盾の青木氏が他界したことで茂木氏の力が強まり、小渕氏を抑え込むとの見方もあるが、岸田首相にすれば、ここで茂木氏を留任させれば、ますます茂木派内を掌握して自らを脅かす存在となりかねず、むしろ小渕氏を重用することで、茂木氏の求心力をそぎたいところだ。

茂木氏は岸田首相より二つ年上で、来年秋の総裁選では69歳となる。ここで岸田首相が再選すれば、首相への道は狭まり、茂木派内からも世代交代論が台頭して、求心力を失っていくだろう。なんとしても来年秋の総裁選へ出馬したいところだ。できれば岸田首相が勇退し、政権を移譲される形で、それが無理ならば岸田首相と激突してでも。

しかし、岸田首相としては、同世代の茂木氏が首相の座につくことを後押しして、同世代のライバルを増やすことよりも、次世代の小渕氏をポスト岸田に引き上げ、その後見人として影響力を残す方が、都合がよい。まさに麻生氏が茂木氏の後ろ盾として80歳を過ぎても影響力を維持しているのと同じ構図である。

それでも茂木氏の自信が揺るがないのは、やはり麻生氏への絶大な信頼だろう。岸田政権誕生の立役者である麻生氏の影響力は決して揺るがない(岸田首相が麻生氏の意向を無視した人事は決して行わない)という確信があるに違いない。

岸田首相が来年秋の自民党総裁選で再選を目指すのなら、9月に予定される内閣改造・党役員人事は最後の体制固めのチャンスである。ここで麻生氏に従い続けるのか、それとも自前の人事を決行するのか。茂木幹事長の去就は、それを見極めるバロメーターとなる。


鮫島タイムスYouTube日曜夜恒例の『ダメダメTOP10』に茂木幹事長もランクインです。ぜひご覧ください。

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