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昭和21年(77年前)の都市計画のままに樹木を切り倒していく東京都と港区の時代錯誤〜『有栖川宮記念公園の伐採を追う』(2)

坂本龍一さんが亡くなる直前に渾身の思いで書き上げた「貴重な樹々を切らないで」という手紙を無視して、東京都の小池百合子知事は明治神宮外苑の再開発事業に着手した。

都民の憩いの場として長年親しまれてきた大量の樹木が切り倒されているのは明治神宮外苑だけではない。葛西臨海公園、芝公園、日比谷公園…小池知事は都内各地で巨木を次々に伐採する再開発事業を推し進めている。これは環境破壊・文化破壊である。

私の散歩コースである東京・港区の有栖川宮記念公園でも樹木の伐採が始まった。港区に問い合わせると、武井雅昭区長が事業申請し、小池知事が認可したことがわかった。

都民の貴重な環境遺産・文化遺産である樹々をなぜ切り倒すのか。都庁や区役所による環境破壊・文化破壊を食い止めることはできないのか。

明治神宮外苑の再開発事業に対しては坂本龍一さんの訴えを機に多くの人々が抗議の声をあげている。私は自分に身近な有栖川宮記念公園の伐採問題を徹底追及しよう。多くの人々が身近な伐採問題に声をあげてくれることを願って。

新連載『有栖川宮記念公園の伐採を追う』初回に続く二回目をお届けする。

私が港区麻布地区総合支所を取材で訪ねたのは3月31日だった。あらかじめ質問項目を伝えていたので、大久保光正・まちづくり課長以下3人が資料を手元に用意して待っていた。

約束の時間は1時間である。今日1日で終わることなく、これから粘り強い取材を続けていくつもりだ。それでも取材は要領よく効率的に進める必要がある。

鮫島タイムスの読者は、私が港区の商品券を題材に税金の使い方を追及した連載『総額15億円「スマイル商品券」の謎〜港区のコロナ目玉政策を追え!』をご記憶の方もいるだろう。私はこの連載で、自治体取材や地方議会取材のノウハウを明かし、読者のみなさんがそれぞれの地元で疑問に感じたことを「取材」してほしいと訴えた。ぜひ参考にしてほしい。

新連載『有栖川宮記念公園の伐採を追う』は後継企画でもある。

私はまず大久保課長に対し、彼が手元に用意していた資料をごっそりくださいとお願いした。課長は「隠すつもりはございませんが、情報公開請求をしていただければ」と答えた。役所の常套手段だ。これに乗ってはいけない。ここが役所取材の最初のポイントである(スマイル商品券の連載でもこの点は強調した)。

情報公開制度は行政監視の切り札だ。区民が条例に基づいて請求すれば、役所は審査を経て行政文書を公開する必要がある。しかしこの制度には弱点がある。①役所にとって都合の悪い部分は「黒塗り」で伏せて公開される恐れがある②こちらが求める文書がそもそも出てこない可能性がある③時間とお金がかかるーーの3点だ。

情報公開制度は法令に基づいて役所に課せられた義務だ。そもそも行政文書は私たちの共有財産。区民に開示するのが原則であって、隠すほうが例外だ。役所は隠す以上はその理由を示さなければならない。

しかし情報公開制度とは別に、私たちには主権者として「知る権利」がある。憲法で保障された基本的人権のひとつだ。情報公開制度などにお金と時間と労力を払わなくても、私たちは原則として行政文書の内容を知る権利を持っているのだ。

地方議員は情報公開制度など使わず、役人に資料を要求する。大久保課長の手元にある資料程度なら、区議会議員が要求すれば課長はすぐに持参する。テレビや新聞など主要メディアの記者も、この程度の資料であれば取材活動としてすぐに役人からもらえる。どうしても役所が渋る場合は情報公開制度を利用するが、ほとんどのケースでは取材活動として即座に資料を手に入れている。

なぜ一般区民だけが最初から情報公開請求をするように命じられなければならないのか。はっきりいって一般区民は、地方議員や主要メディアの記者と差別されているのだ。私は大久保課長に以下のように告げた。

「情報公開請求はお金も時間もかかります。しかも請求して資料を待っているうちに樹木は次々に切り倒されてしまうでしょう。地方議員やマスコミ記者ならば、このくらいの資料はすぐにいただけるはずです。私は情報公開請求をしたくありません。お手元の資料をいま、私にください。それとも区民に隠さなければならない事情でもあるんですか?」

大久保課長はしばらく渋っていたが、再度要求すると手元の資料をその場で渡すことに同意した。第一関門突破である。役所取材は何よりも先に文書をゲットすることが肝要だ。

港区から入手した多くの資料は持ち帰って読み込むこととして、初日の取材で必要なのは、有栖川宮記念公園の伐採の経緯を理解したうえで「伐採」を決定した責任者を明確にすることだ。そのうえで次の取材への足がかりをつくることが大切である。

大久保課長の説明によると、有栖川宮記念公園の伐採は、道路の幅を9メートルから15メートルに広げる都市計画に基づいて、①港区長が東京都に事業を申請した②東京都知事が事業を認可した③港区が伐採を発注したーーという経緯をたどっていた。つまり伐採を決定したのは武井港区長と小池都知事である。

有栖川宮記念公園の樹木を守り、区民の憩いの場を残すためには、この二人の政治責任を追及し、伐採計画を断念する政治決断に追い込むしかない。

驚くべきことに、道幅を広げる都市計画決定は太平洋戦争が終わった直後、GHQ占領下の昭和21年(1946年)に全国一斉に決定されたものだった。日本が独立を回復した後も、日本政府はこの都市計画に基づいて全国津々浦々の都市開発や道路整備を進めてきたのである。

東京都はこの都市計画を実行する「事業化計画」を10年に一度を目安につくってきた。現在は第四次事業化計画まで出来上がっているという。事業化計画はおおもとの都市計画を大幅に見直すことなく、着実に進める前提で整備され、優先順位を明確にする目的で第四次までつくられてきたのだった。

有栖川宮記念公園のわきの道路は1991年策定の「第二次事業化計画」で「優先的に整備すべき路線」に位置付けられたという。

1946年の終戦直後、東京が焼け野原になった後の米軍占領下でつくられた「都市計画」に基づいて、それから55年後の1991年の「事業化計画」で優先して整備する路線に決まり、区長による事業申請と都知事による事業認可を経て、2023年になって有栖川宮記念公園に重機が入り樹木が切り倒されたのだった。

計画策定から77年。この間に樹木は大きく育ち、公園も公園周辺の風景も変貌し、区民の暮らしも激変した。この間に積み重ねられた歴史も、さまざまな変化もすべて無視して都市計画はそのまま踏襲され、ほとんど変更を加えられることなく、実行に移されたのである。一度決まったことは深く考えずに淡々と進めていくーー役所の恐るべき体質としかいいようがない。心を失った行政とはこういうものだ。

私は手元の資料に目を通しつつ、大久保課長の話を聞きながら疑問点を整理し、さらに追加の資料を求めた。伐採に至る手続きに法的・政治的な問題はなかったのか。この場ですべてを精査し、大久保課長をただすのには限界がある。いったん持ち帰って精査するしかない。

ただひとつ見逃せない論点がある。都民や区民の憩いの場である有栖川宮記念公園の樹木を伐採するにあたり、都民や区民に事前に周知して意見を募る行政的手続きを経る必要が法令上あるのではないかということだ。

しかし、大久保課長の答えは「NO」だった。都民や区民に暮らしに根付いた樹木を伐採して環境遺産・文化遺産を破壊する前に、都民や区民に広報などで周知して声を聞く行政上の義務はないというのである。

実際、有栖川宮記念公園の樹木伐採については港区広報などで区民に事前に知らせることは一切しなかったという(文化財保護の観点から別途手続きが必要であり、今回はここが重要な論点のひとつになるのだが、その話は稿を改める)。

ただ、樹木伐採にかかわらず、騒音や振動を伴う工事をする際には近隣住民に事前に説明しなければならないというルールはある。港区は公園近隣に「工事説明会」開催を案内するチラシを1500枚配り、説明会では樹木の伐採について触れたということだった。

これはアリバイ作りでしかない。公園を利用している大多数の都民や区民が気づかなかったのは間違いない。私も気づかなかった。仮に法的に問題ないとしても(本当に問題がないかどうかは精査が必要)、行政の態度としては極めてアンフェアである。知事や区長の不誠実な政治姿勢として追及の対象にできる問題だ。

公園内では高さ3メートル以上の木がすでに102本も伐採されてしまった。低木をあわせると328本が切り倒されたという。犠牲になった樹木は元に戻らない。新年度もさらに伐採は続くという。これはなんとしても止めたい。私は大久保課長に提案した。

「都民や区民にしっかり周知せずに公園の木を勝手に切り倒してしまったのは、行政手続きとして問題ありでしょう。多くの人々の声に耳を傾けたうえで、最後は区長が伐採するかしないかを政治判断するのが、あるべき民主主義の姿だと思います。すでに切り倒されてしまった樹木は元に戻りませんが、少なくともこれから伐採する予定の樹木については、港区の広報やホームページで住民説明会の開催を周知し、幅広い意見をきいたうえで武井区長が可否を決断する。それまで新たな伐採は凍結する。この提案を武井区長に上げて、判断を仰いでいただけませんか。武井区長が『住民説明会など必要ない、このまま伐採を続行する』と判断するのなら、私は武井区長の政治姿勢・政治責任を厳しく問うことにします」

大久保課長は持ち帰って検討すると約束した。私としては「次の取材への足がかり」はつかんだ。気がかりは大久保課長はこの日を最後に人事異動するということだった。後任の課長にはしっかり引き継ぐと約束してはくれたが、どうなるか…。

取材は1時間で終わった。続きはこの連載で同時進行的に報告していく。お楽しみに。

読者の皆さんも身近な場所で樹木が伐採されていないか目を凝らし、発見したら役所に問い合わせていただけるとありがたい。その際にこの連載で示した私の取材を参考にしていただけると幸いだ。

樹木伐採の事前周知が不足していたと港区は認めた!私は住民説明会をやり直し、それまで工事を凍結するよう求めた〜連載『有栖川宮記念公園の伐採を追う』(3)
坂本龍一の遺志を継げ!百年以上かけて守り続けた貴重な樹々を切らないで〜最後の訴えを黙殺した伐採女帝小池百合子はあなたの身近でも樹木を切り倒している!新連載『有栖川宮記念公園の伐採を追う』(1)

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