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新聞記者やめます。あと49日!【「クロ現」終了報道に「事実無根」と抗議し「記事削除」を要求するNHKの落日】

NHKが「クローズアップ現代」終了を内々に決定して後継番組の検討に入ったことを、NHK出身のジャーナリストである立岩陽一郎氏が「Yahoo!ニュース個人」で報じた。これ自体インパクトのあるニュースだが、それ以上に驚いたのは、NHKがこの報道は「まったくの事実無根」だとして記事の削除を求めたことを伝える続報であった。

「まったくの事実無根」というのは、根も葉もないということである。ほんとうに根も葉もないことであるとしたら、この記事は「捏造」ということになる。しかし、立岩氏の記事を読む限り、十分な取材に基づいた記事であることがうかがえる。東京新聞の望月衣塑子記者もツイッターで「私が取材した限りでも、クロ現プラスの番組リニューアル、刷新案は、前田会長体制の下、広く現場から意見も募りつつ進められている」と発信している。立岩氏の記事が「まったくの事実無根」であるとは思えない。

NHKの言い分として想定されるのは「クローズアップ現代の終了が決定したという事実はない」ということであろう。仮に組織として正式に「決定」した事実がないとしても、「終了を検討していること」が事実であれば、それは「まったくの事実無根」とはいえない。「正式に決定したという事実はありません」と回答するのが誠実な姿勢であるし、それならば「記事の削除」など求めるべきではない。

立岩氏はNHKの内部文書を提示して記事を発信している。それが「まったくの事実無根」ではない場合、NHKの方が立岩氏のジャーナリストとしての名誉を毀損していることになり、ゆゆしき問題だ。

ましてNHKは報道機関である。それも公共放送だ。報道の自由、言論の自由の恩恵をもっとも受けている組織であり、それらの自由をもっとも尊重して守っていくべき社会的責務を負っている。それなのに、公共放送としてのNHKの姿勢を外部からチェックする報道に対し、「まったくの事実無根」と反論して「記事の削除」を要求するには、よほどの慎重な判断が求められてしかるべきだ。

立岩氏の報道通り、NHK内部でクローズアップ現代を終了させる検討が進んでいるのに、NHKが「まったくの事実無根」と抗議したとしたら、これは視聴者を欺く背信行為である。そうなると、NHKが報じるすべての報道に信頼が置けなくなる。NHKは自分たちに都合が悪い情報は歪めるのか、NHK予算を握る時の政権が嫌がる報道は避けるのか。ただでさえそうした疑念を抱かれているのに、ますます不信感が強まるだろう。

NHKの記者たちは「まったくの事実無根」であるというNHKの回答が事実に反するのなら、クローズアップ現代の終了が検討されているのなら、内部から声をあげ、ほんとうの事実を視聴者に伝え、虚偽の回答をしたNHK上層部の責任を追及するべきである。さもなくば、NHKの報道に対する世間の不信は膨らむばかりだ。沈黙は加担である。ジャーナリストとしての誇りがあるのなら、声をあげるべきだ。誰も声をあげないのなら、もはや報道機関の看板を降ろした方がよい。

さらにこのNHKの回答には重大なジャーナリズムの欠陥が潜んでいる。それは「正式決定をしていない」事柄を報じる記事に対し「まったくの事実無根」として「記事の削除」を求めている点だ。これはジャーナリズムの自殺行為である。

権力監視報道の最大の意義は、国家権力が決定したことを報じることではない。国家権力が「開戦」を決定した後に「戦争が始まった」と報じても手遅れなのだ。「開戦」が決まる前に「水面下で進む戦争への動き」「開戦がひそかに検討されている事実」を伝え、ほんとうに良いのかと世論に訴えることにこそ、権力監視報道の意義はある。それが真のスクープだ。そうしたスクープ報道を、時の政権は「何も決まっていない」「まったくの事実無根だ」と否定するであろう。それでも報道に踏み切り社会に警鐘を鳴らすことに、ジャーナリズムの存在価値はあるのだ。

ところが、安倍政権以降のマスコミ各社は、政府が正式発表するまでは報道を抑制する傾向が強まった。政権に批判的なテレビ番組のキャスターらが次々に降板させられ、朝日新聞が「吉田調書」報道取り消しに追い込まれて「捏造」「売国奴」とバッシングを浴びて以降、マスコミ各社の萎縮は激しくなり、「エビデンス」や「コンプラアインス」や「客観中立」や「不偏不党」などを口実に、報道を自己抑制する空気が蔓延した。その結果、政府が正式に認めない「不正」はほどんど報じられなくなり、政府はそれをいいことに週刊誌などが報じた疑惑を誠実に調査せず、「認めなければ大丈夫」というモラル崩壊が加速し、安倍政権は7年8ヶ月という歴代最長政権となったのだ。

今回のNHKの「まったくの事実無根」という回答には「正式決定していないことを書くのは誤報だ」といわんばかりの認識が色濃くにじんでいる。ここにこそ「政府が正式に認めないことは書くな」という今のジャーナリズムの凋落が見て取れる。偽りのジャーナリズムの仮面をかぶり、その内実は国家権力と一体化したNHK上層部の素顔を、その回答から垣間見た思いだ。

それはNHKに限ったことではない。正式決定する前の事柄に迫る調査報道に対して「ここが不十分だ」「詰めが甘い」「表現が不適切だ」などと揚げ足を取り、そうすることで国家権力に不都合な報道を自己抑制させ、結果として国家権力に与する風潮が、近年のマスコミ界の内部を覆ってきたのだった。

今回のNHKの対応を機に、いまいちどジャーナリズムの役割を根本から問い直したい。「正式決定していないこと」を書くのが、ジャーナリズムなのだ。「人々の暮らしや社会のあり方に関する重大事項が正式決定する前に、それを公にし、その是非を世の中に問いかける」ことが、権力監視報道なのだ。そのために記者は記者会見に出るだけでなく、発表資料を原稿にするだけでなく、当局者への夜回り朝駆けに明け暮れ、現在進行中の「隠された事実」に迫ろうとしているのではないのか。

政府の正式決定を報じるだけなら報道機関はいらない。それは政府広報機関だ。いまのNHKはほとんど政府広報に成り下がっている。他のマスコミ各社もそれに近づいている。「ジャーナリズムの仮面をかぶった政府広報」の歪んだ素顔が「まったくの事実無根」「記事の削除を求める」という驕り高ぶった回答で浮き彫りになったのだ。

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