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新聞記者やめます。あと50日!【もしいま「小沢一郎首相」だったらバイデン大統領と会ったか?】

日米首脳会談を目前に米国が「北京五輪の共同ボイコット案」を打ち上げた意図を『新聞記者やめます。あと53日!【日米首脳会談前に「北京五輪の共同ボイコット案」を急浮上させた米国の狙いとは?】』で読み解いたところ、たくさんの反響をいただいた。外交は交渉事であり、そこには当事者たちのさまざまな思惑が交錯する。彼らの本当の狙いを読み解くのは簡単ではないが、外交当局者たちが発表する情報は外交交渉を優位に進めるため、あるいは国内世論を操作するための「思惑情報」である可能性が高く、けっして鵜呑みにしてはならない。政治や外交を報じる者が心掛けるべき重要な点だ。

同様のことは国内政局にも言える。日米首脳会談を巡るコラムを執筆していて思い出したのは、小沢一郎氏のことだった。

1990年代から現在に至る日本の国内政治でひとりだけ「主役」をあげるとすれば、私は小沢氏を選ぶ。若くして自民党幹事長として権勢を誇り、自民党を分裂させて非自民連立政権を誕生させ、小選挙区制度を導入して二大政党制をめざす政治改革を主導し、新進党を結成して解党し、自自公連立政権に加わって離脱し、民主党への政権交代を主導し、さらには民主党政権を分裂させたその歩みは、良い悪いの評価を超えて「主役」としかいいようがない。小沢氏なしに平成の日本政治史は語れないだろう。

なぜ小沢氏はかくもながく政界の表舞台に立ち続けることができたのか。私はかつて小沢側近としてその政治活動を間近でみた政治家に尋ねてみたことがある。彼がしばらく考えたのちに口を開いたその解説は実に明快であった。

「小沢さんは自分が頭を下げる会談は決して受けないんですよ。小沢さんが誰かと会うときは必ず、相手が小沢さんに頭を下げて何かをお願いする時だけなんです。そうした状況になるまで、小沢さんは決して政治家と会わない。相手との関係で自分が有利な立場に立つようにあらゆる手立てを講じ、それが実現するまでは、誰とも会わないのです」

政界にあふれるざまざまな「小沢論」のなかで、私はこの解説がいちばん腑に落ちた。小沢氏のかつての政治行動の多くはこの解説で読み解ける気がした。

小沢氏は右派政治家から共産党まで誰とでも会う。しかしそれはお互いに利害が重なる時だけ、さらにいえば、相手が小沢氏の力を借りたいと願う時だけなのだ。そうした政治情勢になるまで、小沢氏は無理をして誰かと会うことをしない。政治情勢が自らに有利に好転するまでじっと辛抱して待つ。政局がうまく回っているときはこの手法は見事に的中し、小沢氏の思う通りに転がっていく。一方、政局が反回転したときは小沢氏はとつぜん雲隠れすることになる。そうした政治姿勢は時に「説明責任を果たしていない」と批判され、「小沢氏からの離反組」を増やしていったのだった。二階俊博、石破茂、藤井裕久、岡田克也…小沢氏に絶望して離れていった政治家は枚挙にいとまがない。

自らが首相や社長というトップリーダーなら、そんな身勝手な姿勢は許されない。どんなに劣勢でも、組織を代表して相手と会い、頭を下げなければならない時はあろう。だが「影の実力者」であれば話は別だ。自分は誰にも頭を下げず、傀儡の首相や社長を「頭を下げに」行かせればよい。そして事態が悪化すれば、傀儡の首相や社長の首をすげ替えればよいのである。自らは傷つかずに影響力を温存できるのだ。

そう考えると、小沢氏が「首相にならなかった」理由が見えてくる。首相にならず、「影の実力者」であり続けたからこそ、この手法は有効だった。小沢氏が新進党や民主党の「党首」として長続きしなかったのもうなづける。小沢氏が「主役」だった平成の日本政治史は「影の実力者」の時代であったといえるだろう。

デジタル時代が到来し、政治の透明化は進んだ。「影の実力者」の時代は終わりつつある。小沢氏の政治手法は高く評価されるべきものではないし、それが通用しにくい時代になったのも事実だ。それを承知の上で、きょうはあえて「自分が頭を下げなければならない相手とは決して会わない」という小沢氏の交渉術について再考してみたい。「バイデン大統領に初めて対面で会う首脳」を国内向けにアピールしてワシントンへ馳せ参じようとしている菅義偉首相の姿勢をみて、そう思ったのだ。

小沢氏の政治手法には交渉事を有利に運ぶ「秘訣」が隠されているのではないか。それは「政治姿勢」としては批判されるべきものであっても、諸外国が国益確保をめざしてしのぎを削る激しい外交交渉の場においては、したたかな交渉戦術になりうるのではないか。

国際社会で不評を買っていたトランプ氏を大統領選で倒して政権を奪取したバイデン大統領は、国際社会でいまや最も求心力を高めている首脳であろう。一方、「最初に対面する首脳」として訪米する菅首相は、内閣支持率が低迷し、自民党内基盤は弱い。しかも大統領選に勝利したばかりのバイデン大統領とは正反対に、今年の秋までに自民党総裁選と解散総選挙を乗り越えなければならないのである。外交で失敗したら二つの国内選挙に黄信号がともる瀬戸際の状況で、米国に出向いていくのだ。

ただでさえ、米国の国力は日本をはるかに上回る。そこに加え、バイデン大統領は圧倒的に優位、菅首相は圧倒的に不利な境遇にあるのだ。これでは日米首脳会談前から「勝負あった」といえるのではないか。「自分が頭を下げる状況では決して会わない」という小沢氏ならば、絶対に選択しないタイミングでの日米首脳会談なのだ。

菅首相がバイデン大統領に裏で何を約束させられるのか、私は気が気でない。

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