結婚10周年を迎えた英国のウィリアム王子とキャサリン妃のニュースを見ていて、これまでと何か違うなと思ったら、二人ともマスクをしていなかった。ふたりが最近参加したチャリティーイベントに映る周囲の人々もほとんどマスクをしていない。
ネット検索すると、英国ではワクチン接種が進んでマスク着用の市民が大幅に減ったことを伝える動画が見つかった。欧州の知人に聞くと、たしかに欧州各国ではワクチン接種が進み、旅行も予約がとれないほどの盛況ぶりだという。「日本はまだコロナなの? かわいそうに」と同情された。ワクチン接種が進む米国のコロナ事情もずいぶんと変わってきたようだ。
日本ではインドで医療崩壊が進む状況が大きく報道されているが、それに比べ、ワクチン接種が進んで通常生活に戻りつつある欧米の様子はあまり報道されていない。ワクチン接種に大幅に出遅れいまだに国民に自粛を強いている菅政権に遠慮して、ワクチン接種が進む先進諸国の実情を報じることを控えているのではないかと勘繰ってしまう。
日本のワクチン接種率が先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中でダントツの最下位に陥っていることもほとんど報道されない。世界182カ国中でも131位なのだ。連日のトップニュースになっても不思議ではないのに。
国際ジャーナリスト高橋浩祐氏のYahoo!個人の記事「日本、ワクチン接種率OECD37カ国で最下位――東京五輪よりもコロナ対策に専念を」を一部抜粋すると、以下のようになる。
英国のオックスフォード大学運営の「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」の4月19日時点のデータによると、日本の人口100人あたりの接種回数は1.53回で、世界平均の11.61回より一桁も少なく、大幅に下回っている。国軍による市民への武力弾圧が続くミャンマーの1.91回よりも少ない。OECD加盟国のワクチン接種先進国としては、イスラエルの119.32回がトップ。2位はチリの68.84回、3位はイギリスの63.02回、4位はアメリカの62.61回、5位はハンガリーの48.22回となっている。人口の中で少なくとも一回のワクチン接種を受けた割合も日本は0.96%となっており、1%未満。OECD加盟国で最下位層に沈んでいる。
権力監視を旨とするマスコミがいまもっとも追及するべきは、この国の「ワクチン敗戦」である。ワクチンの独自開発に失敗し、ワクチンの入手・確保に大幅に出遅れ、その結果、医療崩壊が収まらず、救えるはずの命を救えない事態を招き、そのあげく、またもや緊急事態宣言を発出して国民の自由を延々と奪い続けているのである。世界各国よりも「ふつうの暮らし」に戻ることが大幅に遅れ、国民の自由と権利を余計に制約し続けている政治責任は甚大ではないか。
それなのに、マスコミ各社が大々的に伝えるのは「路上飲み」の是非ばかり。コロナ初期の1年前に、パチンコ店を吊し上げ、夜の街を叩き、常に新しい「悪役」を仕立て、検査・医療体制の不備から国民の目をそらした報道のあり方は何も変わっていない。
権力監視を旨とするマスコミの役割は、「ワクチン敗戦」を招いた菅政権の失政に迫り、その政治責任を追及して政治の緊張感を取り戻すことにあるのではないか。「路上飲みはダメだ」「若者にも重症化リスクがある」などと政府の都合の良い情報を垂れ流すばかりでは、国民からそっぽを向かれて当然である。
ネット上では外交官出身の田中均氏ら有識者が「ワクチン敗戦」の実像を訴えている。しかしテレビや新聞からしか情報を得ていない人々は菅政権の大失態である「ワクチン敗戦」に気づかず、「いちばん悪いのは飲酒自粛に従わず路上飲みをする若者たち」というプロパガンダに強く影響を受けているようだ。マスコミの責任は極めて重いと感じつつ、いまや権力を監視するジャーナリズムの主戦場はネット上に完全に移ったという思いを強くする。
「ワクチン接種率が先進国最下位」という事実をなぜ連日、大々的に報じないのか。多くの人がSNSを通じてマスコミに説明を迫ることが大事であろう。