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新聞記者やめます。あと54日!【首相記者会見で「指名される社」と「指名されない社」】

首相記者会見の「出来レース」はいまや国民的常識となった。

官邸記者クラブの政治部記者たちは事前に質問を官邸にわたす。官邸官僚はそれをもとに答弁案を作成し、首相にわたす。首相は会見本番でそれを読み上げる。まさに台本通りの茶番劇である。

進行役の内閣広報官は厳しい質問をしない政治部記者ばかりを指名する。しかも再質問は認めない。そして一時間がたったら質疑を打ち切る。最後にアリバイ作りのように海外メディアの記者を指名する。首相はこの一瞬のみ身構え、質問をいなせばよいのである。

首相会見の議事進行を記者側が取り戻す。記者側の進行役が指名する。再質問も認める。会見を打ち切らないーー。そうした「首相会見改革」を、なぜ官邸記者クラブは主張しないのか。総務省出身で「飲み会を断らない女」の山田真貴子広報官が世論の批判を浴びて退任に追い込まれ、後任に外務省出身の小野日子氏が就任した時は、官邸記者クラブが「首相会見改革」を官邸側に強く迫る千載一遇のチャンスであった。ところが、官邸記者クラブは好機をみすみす逃し、これまで同様の「出来レース」を続けたのだった。

もはや官邸記者クラブに「首相会見改革」を期待するのは困難である。私は官邸記者クラブの解体を真剣に議論すべき時がきたと思っている。そもそも記者クラブの存在意義は連帯して権力側に情報開示や説明責任を迫ることにあった。いまや記者クラブは権力側が説明責任から逃れるための防波堤になっている。政治不信や政治報道不信を解消するためには記者クラブの解体的出直しは避けて通れない。

もしいま私が編集局長や政治部長なら、まずは官邸記者クラブからの撤退に踏み切ったことだろう。官邸記者クラブなどに所属しなくても、政治報道は十分にできる。いや、今より魅力的になるだろう。

そうしたなか、東京新聞が4月5日に興味深い記事を流した。『菅首相の記者会見、本紙は指名ゼロ 質問「選別」、最多6回の社も』という見出しである。要約すると以下のような内容だ。

菅首相がこれまで官邸で行った9回の会見で、挙手をして指名された回数が最も多かったのは、読売新聞、産経新聞、共同通信の5回だった。続いて日本経済新聞、NHK、京都新聞の4回だった。東京新聞と日本テレビは0回だった(ちなみに朝日新聞は1回だった)

東京新聞の記事はこの集計結果について「政府に批判的な社の質問回数が少ない傾向にあり、識者は『官邸によるメディア選別。結果的に国民に不利益を及ぼす」と警鐘を鳴らしている」と指摘している。まったくそのとおりであろう。

ただ、私が「官邸によるメディア選別」以上に疑問に思うのは、「選別され、指名されない社」がそれを黙認していることだ。なぜもっと怒らないのだろう。なぜもっと抗議しないのだろう。まったく理解できない。

東京新聞のこの記事は「抗議」の一形態である。少なくともこうした記事を「選抜された社」はどんどん出したら良い。

私は第1次安倍内閣が2007年夏の参院選で惨敗した後、官房長官に起用された与謝野馨氏の番記者として官邸記者クラブに配置された。当時も安倍首相会見で指名される社は偏っており、朝日新聞はほとんど指名されていなかった。私は私の会社がそれを容認しているのか不思議でならなかった。そこで、官邸記者クラブに配置されてほどなく広報室へ駆け込み、「なぜうちの新聞社は指名されないのですか。どの社が何回指名されたのかを記事にするため、過去一年間の首相会見に関する一切の資料を開示請求します。今から手続きを行います」と伝えると、広報室長は「ちょっと待ってください。次は指名しますから」と応じたのだった。あらゆる手を使って質問権を獲得し、国民の知る権利にこたえようとするのは、記者として当然の行為であり使命であると思う。

私がいま「選別された社」の官邸キャップなら、官邸記者クラブ総会の招集を求め、「首相会見改革」の具体案を提案し、各社の意見を求める。そして、各社の意見をすべて報道してしまう。できればクラブ総会の様子を撮影し、配信してしまう。さらに改革案を小野広報官に手渡し、その受け答えを動画で撮って配信してしまう。いったい誰が首相会見改革に反対しているのか、何から何まですべて可視化してしまうのだ。

ところが「選別された社」がそうした行動に出る気配はない。東京新聞の記事くらいである。まるで「選別されている」ことを受け入れてしまっているようである。これはいったいどういうことなのか。

東京新聞にお願いしたい。次は「選別された社」に対し、「あなたはどうして選別されているのに黙っているのですか? 抗議の声をあげないのですか?」とインタビューして聞いてほしい。よろしくお願いします。

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